
宇宙で一番小さい存在は“ひも”
数学の前に、物理学のお話をします。宇宙──時間、空間、物質──の根源を探求するのが物理学です。物質の小さな世界をのぞいていくと見つかるのが分子、そして原子です。原子は電子と原子核でできています。その原子核は陽子と中性子でできています。
すると陽子や中性子もさらに小さい何かでできているのだろうかと考えたくなります
それが素粒子です。素粒子とは、物質を構成する最小構成要素です。20世紀後半、素粒子物理学は緻密な理論と精確な実験により数多くの素粒子を発見しました。クオークやレプトンと呼ばれるものです。
宇宙には物質とともに力が存在します。重力、電磁気力、弱い力、そして強い力という4つの基本的な力が発見されました。宇宙のはじまりは小さな点であるというのがビックバン宇宙理論です。宇宙が誕生した直後、宇宙が小さな点であった時代、力は1つだけで、宇宙が膨張するにしたがって4つの力に分かれていったというシナリオです。
日本人で最初にノーベル賞を受賞した物理学者湯川秀樹によって考え出されたアイディア──素粒子が力を媒介する──により、物質だけでなく力の根源も素粒子で説明できることがわかってきました。
クオークやレプトンなどの素粒子の構成要素を考えることで、4つの力とすべての素粒子を説明する壮大な理論ができあがります。それが「超ひも」と呼ばれるものです。素粒子は小さな点として考えられたのですが、すべてを説明しようとする点だとうまくいかないのです。
そこで考え出されたのが点ではなく「ひも(弦)」です。それも4つの力とすべての素粒子を説明できる特殊なひも──超ひも(超弦)です。この宇宙の根源が究極的に説明できるかもしれないという期待のもと、超ひも理論(超弦理論)は精力的に研究がされています。
“超ひも”の長さ
超ひも理論の超ひもの長さは1cmの10の33乗分の1(1/10³³cm)すなわち0が33個のあとに1がある0.000000000 0000000000 00000000001cmと計算されます。これがどれほど小さいのか、1円玉の大きさ、原子、素粒子と比べてみます。
1円玉の半径が1cm
その1億分の1が原子の大きさ
その10億分1以下が素粒子(クオーク)の大きさ
その1億分の1のさらに1億分の1すなわち1京分の1が超ひもの大きさ
です。いかに超ひもが小さいかがわかります。
どこまでも小さく切れる万能カッター
コピー用紙を半分に切り刻んで超ひもの大きさまで小さくすることを考えます。物質をどこまでの大きさまで手を入れられるかは、せいぜい原子の大きさまでです。STM(走査トンネル顕微鏡)、光ピンセット、AFM(原子間力顕微鏡)といった最先端の技術により原子1個をハンドリングすることが可能になっています。
ここでは、どこまでも切り刻むことができる究極の万能カッターがあるとしてコピー用紙を半分半分に切り刻んでいきます。ここから問題は数学になります。
コピー用紙を万能カッターでn回切ると
コピー用紙の長辺の長さをa cmとします。カッターでその真ん中を1回切るごとに長さは1/2になります。n回切れば1/2のn乗倍になるので、長さは
となります。
n回切ったコピー用紙の長さa/2n cmが超ひもの長さ1/10³³cmより小さくなるとは
ということです。分母をはらうことで
となります。A4版のコピー用紙の長辺の長さは297mm=29.7cmなので
この式を満たす最小の整数nを求めます。
29.7×10³³の計算 「2の10乗≒10の3乗」を使う方法
問題は29.7×10³³の大きさです。そこで前回「第39回:コピー用紙は何回折れば月にとどく!?」でも用いた次の関係式を使ってみます。
この両辺を11乗すれば10の33乗が現れます。
したがって、
さらに、
であることから
以上から、
すなわち、
これより、29.7×10³³は2の115乗くらいとわかります。

29.7×10³³をさらに正確に突きとめる
再び
より、
つまり、
両辺を2で割れば
したがって、
すなわち、
29.7×10³³=2¹¹⁴.… 29.7×10³³を正確に突き止めることできました。
これよりnが115の場合に、コピー用紙は超ひもよりも小さくなります。

29.7×10³³の計算 関数電卓を使う方法
今はスマホの電卓に関数電卓機能が標準装備されています。参考:(第18回:関数電卓って何に使うの?)スマホの関数電卓を使えば、あっという間に答えがわかります。
ただし、この使い方には対数関数logの説明が必要になるので、結果だけを示しておきます。たしかに29.7×10³³が2の114.…乗であることがわかります。

こうして問題の答えは115回だとわかりました。「2の10乗≒10の3乗」を使う方法も対数関数logの計算も理解することは簡単ではありませんが、計算を確かめてみることはスマホを使えば簡単です。ぜひスマホで計算を確かめてみてください。
執筆者プロフィール

桜井 進(さくらい すすむ)
1968年山形県東根市生まれ。サイエンスナビゲーターⓇ。株式会社sakurAi Science Factory 代表取締役CEO。東京理科大学大学院非常講師。東京工業大学理学部数学科卒。同大学大学院院社会理工学研究科博士課程中退。小学生からお年寄りまで、誰でも楽しめて体験できる数学エンターテイメントは日本全国で反響を呼び、テレビ・新聞・雑誌など多くのメディアに出演。著書に『雪月花の数学』『感動する!数学』『わくわく数の世界の大冒険』『面白くて眠れなくなる数学』など50冊以上。「桜井進の魔法の算数教室」と「桜井進の数学浪漫紀行」を毎月開催。
サイエンスナビゲーターは株式会社sakurAi Science Factoryの登録商標です。
桜井進WebSite


