封筒の中には、模試の結果が入っています。開けるのが怖いと感じます。でも見なければいけません。そして、この数字を子どもに見せるべきかどうか、多くの親が悩んでいます。
模試の結果との向き合い方。これは、中学受験をする親子にとって、避けては通れないテーマです。
模試結果の見方
模試結果の見方や読み方を間違えると、子どものモチベーションを下げてしまったり、親自身が一喜一憂して疲弊してしまったりします。偏差値という数字は、時に残酷に感じられます。でも同時に、客観的に現在地を知るための道しるべでもあります。
ある保護者の方は、以前、こんな失敗談を語ってくれました。「模試の偏差値が下がったとき、つい『どうしてこんなに下がったの!』って言ってしまったんです。息子は黙り込んで、それ以来、模試の話を一切しなくなりました」
こうした反応は、決して珍しいものではありません。数字が下がった瞬間、親はショックを受けます。そして、そのショックがそのまま言葉になって、子どもにぶつけられてしまうのです。
偏差値は、子どもの頑張りを測るものではありません。その時点での立ち位置を示すものにすぎません。下がったからといって、努力していないとは限りません。たまたま苦手な分野が多く出題されたのかもしれませんし、体調が優れなかったのかもしれません。あるいは、緊張のあまり実力を出しきれなかった可能性もあります。
親が偏差値に一喜一憂する姿を見せると、子どもは『自分の価値は偏差値で決まるんだ』と思い込んでしまいます。それは自己肯定感を大きく傷つけることになります。良かれと思って口にした一言が、子どもの心に長く残ってしまうことがあるからです。
模試結果との向き合い方
では、模試の結果とどう向き合えばいいのでしょうか。
まず大切なのは、「数字だけ」を見ないようにすることです。どの問題ができて、どの問題ができなかったのか。ケアレスミスなのか、根本的に理解できていないのか。そういった分析こそが、次につながる情報になります。
「偏差値が5下がった」と嘆くのではなく、「図形の問題が苦手だったね。ここの問題を重点的にやろう」と具体的な対策を立てることが求められます。そうすることで、模試は「落ち込むもの」ではなく、「次に向けての指針」に変わっていきます。
模試の結果は、子どもと一緒に見るようにするのが良いでしょう。「ここ、できてたね!」「この問題、難しかったね」と、淡々と話し合うんです。数字に反応するのではなく、内容に焦点を当てることが重要です。
このように、結果を「答え合わせの時間」として位置づけることで、親子の会話は自然と前向きなものになっていきます。数字に感情を乗せず、事実として淡々と扱う姿勢が、子どもの安心感につながります。
他の子との比較も、慎重になるべきポイントです。「○○くんは偏差値60なのに」「クラスで一番下だった」。そんな言葉は、子どもを深く傷つけてしまいます。
中学受験は、他の子との競争ではありません。自分自身との闘いです。少し前の自分と比べて、成長しているかどうか。それが一番大切な視点になります。
あえて偏差値を見せない選択肢も
数字を見てやる気が出るタイプの子もいれば、落ち込んでしまうタイプの子もいます。大切なのは、その子に合った方法を選ぶことです。無理に一つのやり方を押しつける必要はありません。
先日訪れた塾の先生は、こんなアドバイスをしていました。「偏差値は親が把握して、子どもには『できたところ』『できなかったところ』だけを伝える。そういう家庭も多いですよ。数字に振り回されないための工夫です」
実際、この方法を取り入れている家庭では、子どもが模試そのものに対して前向きな気持ちを持ちやすくなるという声も聞かれます。数字という結果だけでなく、過程に目を向けられるようになるからかもしれません。
模試の結果が悪かったとき。親が落ち込んでいる姿を子どもに見せないようにしたいものです。「大丈夫、次がんばろう」と笑顔で言えることが理想かもしれませんが、なかなか難しいと感じる方も多いはずです。そういうときは、正直に「少しだけびっくりしちゃった」と伝えてもかまいません。ただし、「でも、あなたががんばってたこと、知ってるよ」と力強く明確に続けてあげてください。
完璧を目指さない
大切なのは、完璧な対応をすることではありません。多少感情が揺れても、最後に子どもの努力を認める一言を添えられるかどうかが、子どもの心を支えることにつながります。
模試は、ゴールではありません。本番までの練習です。一回一回に一喜一憂するのではなく、長い目で子どもの成長を見守っていきたいものです。そう心に決めるだけで、少し気持ちが楽になるはずです。
今日も届いた模試の結果。封筒を開ける前に、深呼吸をしてみてください。これはただの数字にすぎません。子どもの価値を決めるものではありません。そう自分に言い聞かせて、静かに開封してみましょう。
【プロフィール】熱海康太(あつみ・こうた)
一般社団法人日本未来教育研究機構 代表理事。大学卒業後、神奈川県内の公立学校、私立小学校で教壇に立つ。その後、民間教育研究所の主任研究員を経て、現職。即効性、再現性、持続性のある教育実践をSNSで発信し、教育関係者から支持を集める。全国10,000人以上の先生方に講演を行うなど、幅広く活動。著書に『こどもモヤモヤ解決BOOK~もふもふ動物に癒やされながら、みんなの悩みをスッキリさせる159のヒント~』(えほんの杜)、『こんなときどうする? 失敗&ハプニング立ち直り術: 5分でカイケツ道場シリーズ』(実務教育出版)、『学級通信にも使える!子どもに伝えたいお話100』『伝わり方が劇的に変わる!6つの声を意識した声かけ50』(東洋館出版社)など10冊以上の教育書を執筆。