第2回:「この子、本当に受験する気あるの?」〜温度差に悩む日々〜

「勉強しなさい!」


そう声をかけても、返ってくるのはスマホの画面に向いたままの背中。ゲームをやめる気配もなく、塾の宿題は

「あとでやる」

と言ったきり、結局夜遅くまで手をつけない。
そんな我が子の姿を見て、苛立ちを覚えて口うるさく言ってしまったり、ため息をつきながら一日が終わったり。あなたも、そんな日々を送っていませんか。

成績が伸びない不安、周囲の家庭が順調に見える焦り、そして何より

「なぜ自分で決めた受験なのに頑張らないのか」という疑問。


「このままでは志望校に間に合わないのではないか」

「今、踏ん張らせなければ一生後悔するのではないか」
そんな思いが頭を巡り、気づけば声かけは厳しくなり、家庭内の空気は重く張り詰めていきます。

しかし、ここで一度立ち止まって考えてみてください。
子どもは、まだ小学生です。
中学受験が将来の進路や人生にどんな影響を及ぼすのかを、頭では説明されても、実感として理解することはとても難しい年齢です。

友達と遊びたい。
ゲームがしたい。
YouTubeを見て笑いたい。

それらは決して「怠け」ではなく、この年齢の子どもにとって極めて自然な欲求です。むしろ、そうした欲求を感じられること自体が、心身が健やかに育っている証拠とも言えます。

「中学受験は親の受験」とよく言われます。

この言葉は、ともすると「親がすべてを管理し、子どもを引っ張らなければならない」という意味に受け取られがちです。
しかし、本来の意味は少し違います。

小学生の子どもは、まだ長期的な目標を見据えて自分を律する力が十分に育っていません。
だからこそ、

環境を整え、気持ちを支え、迷ったときに伴走する存在として、親の関わりが必要になる。
それが「親の受験」と言われる所以なのです。

ある元中学受験保護者は、当時をこう振り返ります。
「息子が勉強しない姿を見るたびに、イライラしていました。つい

『やる気あるの?』『このままで大丈夫だと思ってるの?』

と言ってしまって。でも、ある日ふと思ったんです。私は本当に『合格』だけを望んでいるのだろうか、と」

さらにこう続けます。
「よく考えたら、私は息子に『受かってほしい』以上に、『頑張っている姿を見たい』と思っていたんですよね。努力する姿を見て、親として安心したかった。私の不安を、息子にぶつけていたんだと気づきました」

親の不安や期待は、言葉にしなくても子どもに伝わります。

「頑張りなさい」という一言の裏にある焦りや苛立ちは、子どもにとってはプレッシャーとなり、「受験=苦しいもの」「親を満足させるためのもの」という印象を強めてしまうことがあります。

子どもがやる気を出さないのは、決してあなたのサポートが足りないからではありません。
声かけが足りないわけでも、愛情が足りないわけでもありません。
ただ、

子どもには子どもなりのペースと、気持ちを消化するスピードがある

だけなのです。親が焦れば焦るほど、子どもは受験を「自分のもの」ではなく、「親のためのもの」と感じやすくなります。

すると、主体的に取り組む力は育ちにくくなり、言われないと動かない、反発する、といった悪循環に陥ってしまいます。

大切なのは、親子の温度差を無理に埋めようとすることではありません。


まずは、その温度差が「ある」という事実を認めることです。

「私は焦っている」
「でも、この子はまだそこまで切羽詰まっていない」
この二つは、同時に成り立っていいのです。
どちらかが間違っているわけではありません。

そこから、「じゃあ、どうしたらこの子が、自分のペースで受験と向き合えるだろう」と考えていく。
管理するのではなく、環境を整える。
叱咤するのではなく、見守る。
その姿勢こそが、結果的に子どもの自主性や粘り強さを育てていきます。

私は、中学受験保護者に対して、このような声をかけたことがあります。


「親が焦って声をかければかけるほど、子どもは逃げます。勉強そのものからも、親との関係からも。でも、親が一歩引いて落ち着いて待てるようになると、不思議と子どもが自分から動き出すケースが本当に多いんです。その状態から少しずつ、ゴール設定を共有していくんです」

今日、あなたが「勉強しなさい」と言いたくなったとき、ぜひ一度、深呼吸してみてください。

その言葉は、今この瞬間に本当に必要でしょうか。
それとも、あなた自身の不安を少し軽くするための言葉になってはいないでしょうか。

親子に温度差があることは、決して悪いことではありません。
それは、親と子が別々の人間であり、それぞれの感じ方や時間軸を持っているという、当たり前の証拠です。

その違いを否定せず、受け入れながら、どうやって同じ方向を向いていくかを模索する。
その試行錯誤そのものが、合否以上に価値のある経験として、親子の心に残っていきます。

中学受験とは、単なる進学イベントではありません。
親が自分の不安と向き合い、子どもが自分のペースで成長していくこと。
その過程を共に歩む時間こそが、中学受験という経験の本質なのかもしれません。

【プロフィール】熱海康太(あつみ・こうた)

一般社団法人日本未来教育研究機構 代表理事。大学卒業後、神奈川県内の公立学校、私立小学校で教壇に立つ。その後、民間教育研究所の主任研究員を経て、現職。即効性、再現性、持続性のある教育実践をSNSで発信し、教育関係者から支持を集める。全国10,000人以上の先生方に講演を行うなど、幅広く活動。著書に『こどもモヤモヤ解決BOOK~もふもふ動物に癒やされながら、みんなの悩みをスッキリさせる159のヒント~』(えほんの杜)、『こんなときどうする? 失敗&ハプニング立ち直り術: 5分でカイケツ道場シリーズ』(実務教育出版)、『学級通信にも使える!子どもに伝えたいお話100』『伝わり方が劇的に変わる!6つの声を意識した声かけ50』(東洋館出版社)など10冊以上の教育書を執筆。

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