「なんで勉強しないの!」「この成績じゃ受からないよ!」「いつになったら本気出すの!」
こんな言葉を、何度子どもに投げかけたでしょうか。そして、何度後悔したでしょうか。
中学受験を経験した保護者の多くが、「感情的になって言ってしまった言葉」を振り返って後悔しています。でも、それは決してあなたが悪い親だということではありません。子どもの将来を思うからこその言葉です。ただ、その言葉が逆効果になってしまうことがあるのです。
10歳ごろから中高生にかけて、自己肯定感はだんだんと下がっていきます。これは、無邪気だった児童期から思春期に入っていく成長過程の自然な傾向です。自信を失いがちな時期と受験時期が重なっているわけです。この時期、子どもたちはとても傷つきやすい状態にあります。親の何気ない一言が、想像以上に心に刺さってしまうのです。
では、どんな言葉がNGなのでしょうか。それは、子どもの存在そのものを否定するような言葉です。「あなたはダメね」「どうしてこんなこともできないの」「お兄ちゃんはできたのに」といった言葉は、子どもの心に深い傷を残します。
子どもは、親が思っている以上に敏感です。親の焦りや不安を、自分のせいだと感じてしまいます。「私がもっと頑張らないと、ママを悲しませてしまう」と、本来の目的とは違う動機で勉強するようになってしまうこともあります。
教育心理学では、こうした動機のことを「外発的動機づけ」の歪んだ形と説明します。本来、勉強は「知りたい」「わかった」という内面からの喜びで続けていくものです。しかし、「怒られたくない」「親を安心させたい」という動機で勉強するようになると、親の目が届かない場面でパタッとやめてしまう。塾では勉強するのに家では全然しない、という状況の背景にも、しばしばこの構造が潜んでいます。
さらに近年、見過ごせないのはスマートフォンとSNSの問題です。子どもたちは常にオンラインで友人とつながり、通知が来るたびに気が散ります。「勉強しなさい」と言っても、机の引き出しに入れたスマホが頭から離れない。これは意志の弱さの問題ではなく、脳の報酬系が通知という刺激に反応してしまうという、神経科学的な問題でもあります。親がどれだけ声を荒げても、スマホの誘惑には勝てません。「なんで集中できないの!」と叱る前に、環境を整えるアプローチを考える方が、はるかに効果的なのです。
では、どんな言葉をかけたらいいのでしょうか。それは、子どもの「今」を認める言葉です。
「難しい問題に取り組んでるんだね」「30分も集中してたね」「わからないところを先生に質問したんだ、えらいね」。結果ではなく、プロセスを認める。小さな一歩を見つけて、それを言葉にする。
スタンフォード大学の心理学者キャロル・ドゥエックが提唱した「グロース・マインドセット(成長志向)」の研究では、「頭がいいね」という能力への称賛よりも、「頑張ったね」「工夫したね」というプロセスへの称賛の方が、子どもの粘り強さと学力向上に大きく貢献することが実証されています。子どもは「才能がある」と言われると、失敗を恐れて難しい課題を避けるようになる。一方、「努力した」と認められた子どもは、失敗しても「まだやれる」と感じ、挑戦し続けるのです。この視点は、日々の声かけを考える上で、非常に実践的なヒントになります。
声かけを変えることは、簡単ではありません。つい感情的になってしまう日もあるでしょう。でも、完璧である必要はないのです。「さっきはごめんね、言い過ぎた」と素直に謝ることも、子どもにとって大切な学びになります。
中学受験は長い道のりです。この期間、親子関係がギスギスしたまま過ごすのは、あまりにもったいない。受験が終わったとき、「大変だったけど、あの時期は楽しかったね」と笑い合えるような関係でいたい。そう思いませんか。
最近、中学受験界隈では「伴走」という言葉をよく聞くようになりました。親がレースに参加するのではなく、子どものペースに合わせて走り続ける存在でいる、という意味です。先に行きすぎても、後ろから急かしても、子どもは走りにくくなる。
隣に並んで、「一緒にいるよ」と伝え続けること。それが、今の時代に求められる受験の伴走者の姿かもしれません。今日から、「なんで勉強しないの!」を「今日はどんなふうに勉強する?」に変えてみる。たったそれだけで、家の空気が少し軽くなるかもしれません。言葉は習慣です。最初はぎこちなくていい、一度ではうまくいかなくていい、少しずつ、今日の自分より明日の自分が少しだけ上手に話せれば、それで十分です。
【プロフィール】熱海康太(あつみ・こうた)
一般社団法人日本未来教育研究機構 代表理事。大学卒業後、神奈川県内の公立学校、私立小学校で教壇に立つ。その後、民間教育研究所の主任研究員を経て、現職。即効性、再現性、持続性のある教育実践をSNSで発信し、教育関係者から支持を集める。全国10,000人以上の先生方に講演を行うなど、幅広く活動。著書に『こどもモヤモヤ解決BOOK~もふもふ動物に癒やされながら、みんなの悩みをスッキリさせる159のヒント~』(えほんの杜)、『こんなときどうする? 失敗&ハプニング立ち直り術: 5分でカイケツ道場シリーズ』(実務教育出版)、『学級通信にも使える!子どもに伝えたいお話100』『伝わり方が劇的に変わる!6つの声を意識した声かけ50』(東洋館出版社)など10冊以上の教育書を執筆。