第32回:九の段は両手の中に!?

かけ算九九は小学校算数における一大イベント

とにかく一の段から九の段までの81通り、すべてを覚えなければならないのがかけ算九九です。独りでのトレーニングが難しい場合には家族にも手伝ってもらうことになります。筆者も小学2年生のとき、祖父といっしょに練習したことを覚えています。

かけ算九九は一の段から順に九の段まで覚えていきます。9×8の答え(積)を計算ですることなく、暗唱した“呪文”「くはしつじゅうに」より72と得られます。はたして“呪文”はその後のかけ算に絶大な偉力を発揮します。

ですから家族は子供に必死に九九を覚えてもらおうと努力します。わが国の高い計算力──特に暗算──を支えるのが九九です。日本人なら誰もが知っている九九ですが、九九には興味深いエピソードがたくさん秘められています。数回に渡って九九のエピソードを紹介していこうと思います。

手の裏を自分にみせて両手を開く

図のように、手の裏を自分にみえるように開きます。そして、指を1本折ります。すると、九の段の答えが即座にわかります。9×8が72であることがこの両手の様子からわかります。9×8=72の8と7と2の3つの数がこの両手に表されています。しばし眺めてみましょう。

左から8本目の指を内側に折り曲げるだけ

九の段の9×8の場合、左から数えて8本目の指を内側に折り曲げます。すると、折り曲げた指の左側に立っている指の本数7が積の十の位、右側に立っている指の本数2が積の一の位の数を表します。答え(積)が72ということです。

九の段の9×1から9×9そして9×10までの答えをこの方法で確かめてみましょう。「ほんとだ!」の直後に「なぜ?」と思うことでしょう。

謎解き 数学とはパターン・アンド・ルール

9×8は、左から8本目の指を折ると、左側の指は8−1=7本(答えの十の位)、右側の指は2本(答えの一の位)になります。なぜそうなるのでしょうか。

九の段の10のパターン──9×1=9から9×10=90──を眺めてみるとルールが見えてきます。九の段のかけ算を9×〇=(答えの十の位)(答えの一の位)とすれば、〇と(答えの十の位)の間に次が成り立ちます。

(答えの十の位)=〇−1 …(A1)

また、答えの十の位と一の位の和は、0+9、1+8、2+7、3+6、4+5、5+4、6+3、7+2、8+1、9+0よりすべて9。すなわち、

(答え十の位)+(答えの一の位)=9 …(A2)

の関係が成り立ちます。

この関係を10本の指を使って表現することができるわけです。それには、両手の10本の指において、左から〇本目の指を折ればいいのです。

左から〇本目の指を折れば、明らかにその左側に立っている指はそれよりも1小さくなり〇−1本です。これが(A1)の〇−1です。すなわち、

(折った指の左側の指の本数)=(答えの十の位)

また、左から〇本目の指を折れば、明らかに

(折った指の左側の指の本数)+(折った指の右側の指の本数)=9

すなわち

(答えの十の位)+(折った指の右側の指の本数)=9

なので、(A2)により

(折った指の右側の指の本数)=(答えの一の位)

となります。

九の段以外にもこのような方法があります。次回は「両手の中に九九!?」です。

執筆者プロフィール

桜井 進(さくらい すすむ)

1968年山形県東根市生まれ。サイエンスナビゲーターⓇ。株式会社sakurAi Science Factory 代表取締役CEO。東京理科大学大学院非常講師。東京工業大学理学部数学科卒。同大学大学院院社会理工学研究科博士課程中退。小学生からお年寄りまで、誰でも楽しめて体験できる数学エンターテイメントは日本全国で反響を呼び、テレビ・新聞・雑誌など多くのメディアに出演。著書に『雪月花の数学』『感動する!数学』『わくわく数の世界の大冒険』『面白くて眠れなくなる数学』など50冊以上。「桜井進の魔法の算数教室」と「桜井進の数学浪漫紀行」を毎月開催。
サイエンスナビゲーターは株式会社sakurAi Science Factoryの登録商標です。
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