Special Report
明星中学校・高等学校は、多様な進路希望に対応し、大学合格実績でも大きな伸びを見せている。本科とMGSの教員と、希望の進路を実現した卒業生4人に話を聞いた。
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多様な進路に対応する本科、一般入試での合格を目指すMGS
2022年度の卒業生は、本科が9クラス、MGS(Meisei Global Science)が3クラスというクラス編成。本科とMGSそれぞれの進路実現について、真島由起子先生(本科・進路担当)と桃井洋子先生(MGS・担任)に話を聞いた。
課外活動も進路実現の大きな力となる「本科」
本科では部活動や課外活動など、勉強以外にも一生懸命に取り組むことで、将来の目標を見つけることにつなげていく。一般入試だけでなく、総合型選抜や指定校・公募推薦など、あらゆる手段を念頭に入れていくことが進路指導の基本だと、真島先生は説明する。
「2022年度は、本科の7割が年内入試を利用して進学しました。コロナの影響などもあり、安定志向が広がっていることも要因の1つだと思います。一方で、面接が苦手だから一般入試にしたいという子もいますが、年内入試も視野に入れれば、志望大学を複数回受験する機会が得られるのです。面接の練習もしっかりとサポートしますし、その大学で研究したいことがあるなら、熱い思いを伝えられるチャンスをぜひ活かしてほしいと思っています。そういったことも含めて、高1から進路ガイダンスを行って、希望する進路を実現できるようにコミュニケーションを取っていきます」(真島先生)
本科では、総合型選抜や推薦、一般入試といった多様な入試に向けた対策を行う。高3になると、出願に必要な事務的なことから面接やプレゼンの練習まで、それぞれの志望大学に合わせた指導を行っていく。
「面接の練習も必ず3回はやりますし、総合型選抜のプレゼンや志望理由書のチェックなども志望校に合わせて行っていきます。私の場合は、生徒たちの志望大学やどの選抜方法で受験するかを一覧にして、32人分のスケジュールを管理。それを元に、志望理由書をいつまでに送るようにとか、オープンキャンパスに行ったら感想を送るようにとか、ClassiやGoogle Classroomを使って個別にやりとりしていきます。多様な進路に対応し、いろいろな方向を向いている生徒たちが共存できるのが本科の特徴であり、明星の伝統を色濃く引き継いでいるのも本科だと思います」(真島先生)
本科では、SDGs推進校として総合学習の時間に行う探究活動にも力を入れている。例えば、高3で行く研修旅行先は生徒たちがプレゼンを行って決め、2022年度は大山(鳥取県)と淡路島(兵庫県)へ行った。その地域の特産品を東京で紹介する販売会を実施し、売り上げは地域創生事業へ寄付。生徒たちは、地域事業者20社と事前にリモートでの打ち合わせを何度も行ったという。
「週2コマある総合学習の時間での活動が中心ですが、そこから派生して別の活動に広がっていくこともあります。文理選択でクラスが分かれる前に、学年の教員全員が集まって、生徒たちの興味や進路に関する情報を共有しました。外へのネットワークを持つ教員もいるので、生徒が興味を持ちそうなプロジェクトがあれば、Google Classroom で情報を流したり、声をかけたりしています。課外活動を通して、やりたいことがある子はそれを深められますし、進路が決まってない子はやりたいことを見つけるきっかけにもなります。その結果として、年内入試での合格にもつながっているのだと思います」(真島先生)
学びの本質を知ることで学習効果が向上した「MGS」
一方、一般入試で戦える生徒を育成するのがMGSだ。MGSは、「国公立文理クラス」「理系クラス」「私立文系クラス」に分かれて、それぞれの志望に応じた授業と進路指導を実施。近年は大きく合格実績を伸ばしているが、合格実績を伸ばすことだけを目標にしているわけではなく、学びの本質を教えることを大切にしていると、桃井先生は語る。
「MGSでは、学びを好きになり、学びに楽しさを見出し、一生学び続けられるように育てたいと考えています。私が担任をしていた国公立文理クラスは2020年度からスタートしたので、2022年度の卒業生が1期生です。このクラスで数学を担当したのですが、もっと生徒同士で話し合う授業がしたいと生徒たちの方から要望がありました。それから生徒主体の授業に重点を置くようにしてみたら、自分たちで問題を解いてきて、自分たちで解説をして、意見交換をして授業を作り上げていくようになったのです。私は長年アクティブラーニング型の授業を研究してきたのでうまくマッチしたと思うのですが、授業アンケートで他の教科でも生徒同士で話し合う時間をもっと作ってほしいという意見が出て、他の教科でもそのような授業が作り上げられていきました」(桃井先生)
アクティブラーニング型の授業は、内進生がリードしていったという。同校は、中学校から探究学習に力を入れているので、そういった活動が主要教科の授業にも波及していったのではないかと桃井先生は振り返る。
「教員主体の授業と比べて、学習効果は段違いだと実感しています。生徒たちは学ぶことが楽しいと感じているので、休み時間や放課後にも数学のことで議論するようになっていました。自分がわかるようになると、人に教えたいと思うのが人間の心理です。また、人に教えることで、教えた本人が一番勉強になります。ですから、小さい先生を作って生徒同士で学びあう集団ができれば、教員1人が20人や40人に教えるより、学力は大きく伸びていくのです。大学受験のための過去問演習や、補講などはしませんでしたが、難関大学への合格という結果も出してくれました」(桃井先生)
国公立大学を目指すクラスは文系と理系に分けずに、5教科を満遍なく学ぶ。だからこそ、生徒同士の学び合いも、より効果的に行うことができた。
「それぞれのスペシャリストがいたから、文系と理系を分けたクラスより生徒同士の学び合いによって学習効果がより高まったと、卒業生が言っていました。最初は数学が嫌いな子もいましたが、生徒主体の学びを通して楽しさを知ってからは数学が嫌いではなくなったのです。演習問題をたくさんこなさなくても、学ぶ楽しさを教えれば自分から学ぶようになり、それが進路実現にもつながっていくのだということを、生徒たち自身が見せてくれました」(桃井先生)
本科で学び、年内入試で希望の進路を実現した卒業生2人にインタビュー
本科で学び、特別推薦や総合型選抜を利用して希望の進路を実現した2人の卒業生に話を聞いた。
志望大学別のきめ細やかなサポート
明星大学の教育学部は知名度も高く、小学校の先生になりたいから特別推薦枠のある同校を選んだという生徒も少なくない。高入生のMさんもその1人だ。
「小学生の頃は人前に出ると緊張してしまったのですが、6年生の担任だった先生から勇気をもらって、引っ込み思案を克服できました。その頃からはっきりと、私もこんな先生になりたいと思うようになったのです。先生になるために、明星大学の教育学部に進学したいと思って高校受験をしました。明星大学に推薦で進学するためには、定期テストが重要です。推薦の基準は学部・コースによって違いますが、小学校教員コースは特に高い成績が必要なので、定期テストはもちろん、日々の授業も大切にしていました」(Mさん)
一方Kさんは、将来への可能性を広げるために、慶應義塾大学の文学部を選んだという。慶應の文学部は、入学後1年間は専攻を決めるための準備期間とし、2年次以降も他専攻や他学部の授業を受講することが可能だ。
「まだはっきりとやりたいことが定まっていないので、2年生で専攻を選ぶことができるなど、開かれたカリキュラムであることに魅力を感じました。総合型選抜の試験は、現代文読解型、小論文型の問題、外国語作文です。担任の先生、国語の先生や英語の先生などのサポートもあり、志望大学に絞った対策ができました。一般受験の対策も並行して進めていたのですが、それが結果的に総合型選抜の対策としても役に立ったと思っています。高3になってからは、毎朝1時間ぐらい早く登校して、図書館で勉強していました。図書館なら過去問をすぐにコピーして解けますし、1人用の机で集中したり、大きな机で友達と教え合うこともできるので、勉強するにはとてもよい環境です」(Kさん)
明星大学の特別推薦入試は面接のみだが、高校生活での活動だけでなく、教員になってからのビジョンも詳しく聞かれたという。
「教育学部のエントリーシートには、志望理由や高校生活での活動、教員になったらどんな学級作りをしたいか、教員や保育士に求められる能力はどんなものだと思うかなどを書きました。面接はエントリーシートに沿って質問されますが、明星大学を受験する生徒は面接の練習もしっかりとしてもらえます。大学のアドミッションセンターの方からもアドバイスをもらえたので、本番も自信を持って答えることができました」(Mさん)
課外活動は将来につながる貴重な経験」
小学校からの内進生であるKさんは、中学受験や高校受験を経験していない。だから今回の受験が、初めての成功体験となったとKさんは振り返る。
「受験勉強を経験して、初めて勉強が楽しいと思えるようになりました。現代文が苦手だったのですが、参考書などを駆使してどんな問題が来ても大丈夫なぐらいになり、成績も上がってきたら文章を読むのが楽しくなったんです。こんなにわからないことがあったのかという発見や、できなかったことを自分の力で乗り越える楽しさを経験しました。この経験は、これからの糧になると思います」(Kさん)
高校生活では、課外活動にも積極的に参加したというMさん。山梨県大月市の地域活性化や、いじめについて取り組むボランティア活動にも参加した。
「明星は、自分たちで問いについて考えて、話し合って答えを出すなど、生徒主体の授業が多いこともよかったです。プレゼンする授業も1年生からあるので、人前で話す機会も多く、課外活動では自分で考えて行動する力が身につきます。私は大月市の地域活性化プロジェクトに参加して、大月の街を巡り、地元の方と交流しながらフィールドワークを行いました。企業と連携したボランティア活動では、様々な人と交流しながらいじめについて取り組みました。大学では、教員免許を取得するための勉強はもちろん、そういったボランティアにもまた参加したいと思っています」(Mさん)
Kさんは課外活動での出会いが、大学で学びたいことを見つけるヒントになったという。
「明星は課外活動に力を入れているので、総合型選抜での強みにもなると思います。中3のときはセブ島の語学研修に参加して、1ヶ月間寮に入ってマンツーマンで英語を学びました。高校では総合学習の時間を中心に、自分のやりたい課外活動ができる環境が整っています。大学生や社会人がメンターとして相談に乗ってくれたり、興味がありそうな活動を先生が紹介してくれます。私は、日本にいる移民の問題を可視化して、解決策を探す活動に参加しました。そこで出会った友達は、英語が堪能でアイデンティティーが確立していて、とても楽しそうに活動していたのです。それは、英語が話せることと関係しているのではないかと考え、言語に興味を持ちました。慶應には言語と認知の関係を研究している教授がいるので、その教授のもとでゼミを受けたいと思っています」(Kさん)
MGSで学ぶ楽しさを知り、難関国立大に挑んだ卒業生2人にインタビュー
生徒主体で学ぶ授業を通して学力を伸ばし、難関国立大学に合格したMGSの卒業生2人に話を聞いた。
生徒主体の授業で「学ぶ楽しさ」を体感
国公立大を目指すクラスでは、数学が大好きな1人の生徒を中心に、休み時間にも数学の話をするようになっていったと、Iさんは振り返る。
「教室に小さなホワイトボードが何台かあり、そこに誰かが数式を書くと、他の人もそこに別の解き方を書き込んだりして、みんなでやりとりをするようになりました。解き方は1つではないので、『このやり方はどう?』などと意見を出し合います。高1の頃からやっていましたが、高3になると内容も難しくなっていくので、どんどん会話も盛り上がっていきました。国公立の2次試験は記述式なので、なぜその答えが出たのか本質がわかっていないと、いくら演習を積んでいたとしても受験で使えないと思います。授業も生徒主体だったので、自分から質問したり、周りの人たちと考えを深め合えることが本当に楽しかったです」(Iさん)
Iさんはもともと数学が好きだったが、Fさんは数学が嫌いだったという。桃井先生のクラスで学ぶ中で、Fさんはどのように気持ちが変化していったのだろうか。
「昔は数学が嫌いでしたが、今は割と好きです。受験対策として教科書を覚えるのではなく、自分が納得いくまで解答を作り上げるなど、主体的に学ぶことができたから楽しさにつながったと思います。桃井先生をはじめとする先生方は、できるまでとことんつきあってくれました。できるようになると、学ぶことが楽しくなります。授業は文系も理系も一緒に学ぶので、それぞれが得意な分野を教えたりして、寺子屋みたいな感じでした」(Fさん)
弁護士という夢に向かい、歩みはじめたそれぞれの道
Iさんは数学が好きではあるが、以前から法学部へ進みたいという揺るぎない思いがあったという。
「父の知人には法曹界で働いている方が多く、リストラされた会社を訴えて勝訴した人の裁判なども身近に感じる機会がありました。法律は、社会的弱者を助ける1つの手段です。不公正なことがまかり通っていることを知り、法律で人を助けたいと思うようになりました。高1のとき、私が企画して弁護士の方に憲法の講義をお願いしたこともあります。9条に自衛隊を明記することの問題について、深掘りして話していただきました。理系が多かったので最初は戸惑いもありましたが、グループワークで議論するとポンポン意見がでてきて、それぞれが自分なりにくみ取って意見を言うようになっていきました」(Iさん)
Iさんが企画したこの講義は、Fさんの進路にも大きな影響を与えた。
「中学生の頃は進路についてあまり考えていませんでしたが、この講義をきっかけに弁護士という仕事に興味を持ちました。そこから、司法試験の累計合格率が最も高い一橋大を調べ始めました。一橋大は、学部・学科の垣根を越えてゼミが取れ、法学部以外の卒業生でも弁護士になっている方が多くいるという点に魅力を感じて一橋大を目指す事にしました。学部は先生方と相談し僕に一番合った商学部に決め合格することができました。私大の対策はほとんどしませんでしたが、教科の本質が分かっていたので、早稲田や慶応にも合格できました。本物の学力をつければ、どの大学の入試にも対応できるという事を実感しました」(F さん)
一方Iさんは、学部ではなく受験大学を変更したことで、弁護士という夢に向かって1歩踏み出すことができた。
「当初の志望は別の大学でしたが、やはり共通テストで思うような結果が出せなかったので、受験大学を変更しました。実は、高2の12月に、模試の判定を見て志望大学を変えた方がいいと先生からアドバイスをもらったのですが、まだ1年あるからと意地を張って変えなかったのです。結局、共通テストの後に、目標が変わっただけだから受験大学を変えることは悪いことではないと思えるようになりました。いつまでもうじうじ考えていたら、前に進めず合格もできなかったので、気持ちの切り替えは大事だと思います。今回の経験から、先生方は私のことを考えて最善の判断をしていたことがわかりましたし、柔軟な考え方を学ぶことができました」(Iさん)
18人18色、いろいろなタイプのクラスメイトに囲まれて過ごす中で成長できたと、Fさんは高校での3年間を振り返る。
「以前は、これと決めたら盲信して、型にはまるタイプでした。高校3年間、いろいろなタイプのクラスメイトと過ごす中で揉まれて、自分の角が削れて、どんどん視野が広がっていきました。せっかく視野が広がったので、大学でも弁護士だけに固執せず、キャンパスで少数精鋭の学友と話し合いながら、進路を決めていきたいと思っています。自分の知らないことを知っていって、少しずつ大人になっていきたいです」(Fさん)
Iさんは、弁護士という揺るぎない目標に向かって進んでいく。
「高1のときにお招きした弁護士の方が労働法を中心に学んでいたので、私も労働法を主軸に置こうと思っています。今でも数学は好きなので、独学で数Ⅲの勉強を始めました。理系の人たちが学んでいるのを見て、数Ⅲはレベルも違うし、授業も楽しそうだったので、趣味として学び続けていきたいです」(Iさん)
取材を終えて
2012年に文科省の中央教育審議会がアクティブラーニングという教育法を提唱したことで、様々な形でアクティブラーニングが導入されてきた。そのような中でも、今回桃井先生から聞いた授業の形や生徒たちの変化は、非常に興味深いものである。寺子屋のような雰囲気で自然に教え合い、学びの本質を知った生徒たちは、過去問を解いていなくても合格できる力を身につけていたのだ。IさんやFさんが学んだ教室のホワイトボードには、生徒が書いた問題が残されていた。合格実績だけでなく、このような学びが展開されていることにもぜひ注目していただきたい。
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