Special Report
英語力を伸ばすだけでなく、体験的な国際教育を通じて異文化理解とは何かを学び、国際社会で生きる力を育成している明星中学校・高等学校。国際教育の特色について、国際教育部主任に就任した平山由紀子先生とターム留学を経験した高2の生徒に話を聞いた。
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和の精神のもと、世界に貢献する人を育成
同校では、建学の精神「和の精神のもと、世界に貢献する人を育成する」の実現を目指し、国際教育に力を入れている。
「国際やグローバルという言葉から、英語がペラペラになることをイメージするかもしれませんが、そうではないと授業の中でも伝えています。自分以外のこと、他国のことも知らないと、社会の中で生き抜いていくことは難しいでしょう。知らないと、何も始まらないのです。世界のことを知らないと、日本のこともわかりません。国内で何かをやろうとしても、他国の文化を知らないとできないことも多いのです。自分が知っている範囲で満足して完結していたことが、他者や他国からの刺激が入ることで、自分が知っていたのは小さな世界だったと気づくことができます。4月に就任した水野校長が入学式の式辞で、金子みすゞの詩『みんなちがって、みんないい』の話をしていました。『あなたは、あなたにしかない違いを自分の力で育て、そして仲間の違いを大切にしていってほしい』と語った新校長の思いは、国際教育部が目指していることとも重なっています」(平山先生)
生徒たちには、人から信頼され、必要とされる人、そして一緒に働きたいと思われる人に育ってほしいと平山先生は語る。
「一緒に働きたいと思われる人は、周囲の人に『居心地がいい』と感じてもらえるような人だと思います。『居心地がいい』と感じてもらうためには、自分の気持ちを大事にした上で、他者を理解することが必要です。他者を理解することは、『違い』を知ることから始まるので、日々の生活が国際教育につながっていきます。私のクラスでは、『自分にとっても、他人にとっても居心地のいいクラスにしよう』という目標を立てています。目標を立てて目立つところに掲示したら、『今、自分は楽しんでいたけれど、他の人に迷惑をかけていたかもしれません』などと言ってくる生徒もいました。わかりやすい言葉で伝えて可視化すると、生徒たちは意識して実行するようになります」(平山先生)
国際教育に関しても、わかりやすい言葉で可視化することの大切さを実感したことがあったという。
「ターム留学の大きなポスターを作って掲示したところ、中2の生徒が『まだ対象ではないけれど、説明会に参加してもいいですか?』と言ってきたのです。彼は中3から選抜される英語クラスにも意欲を示しているので、そういった情熱を秘めている生徒に届くように、これまで以上に情報を発信していきたいと考えています。本校では、建学の精神『和の精神のもと、世界に貢献する人を育成する』を実現するために、10年ほど前から教養講座『世界の扉』を実施しています。東京外語大の学祭ツアーをしたり、馴染みのない国の大使館の方をお招きしてお話を聞いたり、子ども食堂でボランティア活動をするなど、他者や他国を知るきっかけとなる活動です。より多くの生徒に参加してもらえるように、卒業生に動画を作ってもらっています。海外へ行かなくても、日々の生活の中で動きだすきっかけとなるように、様々な種を蒔いていきたいです」(平山先生)
ネイティブの人々により多く触れ、「違い」を知るための新たな展開
同校は、「特別選抜クラス」と「総合クラス」の2クラスでスタートするが、中3と高1には英語教育に特化した「英語クラス(Eクラス)」が設置されている。
「英語クラスは、中2の秋に希望を聞いて英語力や意欲などを考慮して選抜します。専任のネイティブ教員がオールイングリッシュの授業を展開するクラスなので、そのような環境で学んでいこうという気持ちがあるかが重要です。ホームルームにもネイティブ教員が入り、クラス運営にも関わっているので、英語教員だけでなくネイティブ教員との面談もあります。今年度は、中3と高1それぞれ30人弱の生徒が英語クラスで学んでいます」(平山先生)
今年度から、中学の全クラスでネイティブ教員の授業が始まった。
「英語クラス以外では、ネイティブ教員と日本人教員のティーム・ティーチングによる英語の授業が始まりました。また、中1と中2では、英検に特化した授業をクラス内で行います。本校では英検取得のサポートにも力を入れており、3級以上の2次対策にもネイティブ教員が入って練習します。問題カードなども使って個々のレベルに合わせた対策を行っているので、準1級を取得するなど、2次の合格率も高くなっています」(平山先生)
現在同校では、夏期・冬期休暇を利用した短期留学、高校1・2年次の3学期に単位互換で行われるターム留学、単位互換による1年間の長期留学が用意されている。来年度からはこれらを行ってきた経験を活かし、同校オリジナルの海外研修を導入する予定だという。
「生徒たちに変わってほしいと思うなら、私たち教員も変わっていくことが必要だと思います。国際教育部で何か新たな取り組みを始めるときには、私自身も取り組んでいる姿を見せることができるように、どんどん動いていきたいです。来年度の夏から、教員も同行し、事前・事後研修とセットで力がつくような新たな海外研修の導入を予定しています。一人ひとりが自分の目的を持って現地で生活し、帰国後に何かの形で結果につなげられるようなプログラムにしたいです」(平山先生)
ターム留学を経験した生徒2人にインタビュー
高1と高2が対象となっているターム留学(希望制 英検準2級以上)は、オーストラリアまたはカナダの現地校に約3ヶ月間通う。2024年1月から3月に、カナダ(ブリティッシュコロンビア州ビクトリア)の現地校にターム留学をした高2の生徒2人に話を聞いた。
Mさん (本科・留学時は高1 中入生)
――留学しようと思ったきっかけを教えてください。
Tさん 中学生の頃から英語が他の教科よりできたので、もっと伸ばしたいと思って留学しました。英検は、準2級を中3のときに取得しています。
Mさん 3歳までタイに住んでいたことや、旅行でベトナムやフィリピン、アメリカなどに行った経験から、海外の文化に関心を持つようになりました。英検は留学の基準より上の級を取得したいと思って、高1のときに2級を取得しています。
――カナダではどんなことに日本との違いを感じましたか?
Mさん 現地校のカリキュラムが、日本とは違ったので新鮮でした。毎日4コマの授業を受けましたが、時間割が毎日同じで、ドラマ(演劇)やフード(調理)の授業が楽しかったです。
Tさん フードの授業では、ほぼ毎日お菓子か料理を作りました。
――3ヶ月の間、英語力はどのように向上しましたか?
Tさん 最初のうちは、話すスピードが速いと聞き取れないことが多く、知らない単語がたくさん出てきて大変でした。会話をしていても「Yes」か「No」だけで終わらせていましたが、最後の方は少しでも自分の意見を言おうと努力するようになりました。
Mさん 友達ができてから、リスニングの力が伸びたと思います。最後の方は、ほとんど聞き取れるようになっていました。スピーキングの力ももっと伸ばしたかったので、もう少し長く居たかったです。
――現地の学校はどのような雰囲気でしたか?
Mさん 私たちが通った学校では、自分から話しかけないと関心を持ってもらえなかったです。こちらから話しかけると優しく答えてもらえますが、きっかけはこちらから作る必要がありました。
Tさん 私は引っ込み思案な面もあり、自分の英語力にも自信がなかったので、なかなか自分から話しかけることができませんでした。Mさんと同じ学校だったので、頼りすぎてしまったところもあったと思います。
――ホームステイ先ではどのように過ごしましたか?
Tさん 最初のうちは時差ボケや環境の違いに体が慣れていないこともあり、食べ物が美味しいと感じませんでした。ホストマザーは私が好きなものを聞いてくれるなど、優しかったです。ブリトーみたいな料理が気に入ったので、それが好きだと言ったら何回も出してくれました。
Mさん 私が滞在した家庭もみんな優しくて、遊びにいくときに車で送ってくれるなど、とても面倒見がよかったです。ホストシスターとも仲良くなれました。料理も夫婦で毎日作ってくれて、とても美味しかったです。
――ターム留学をして変わったことはありますか?
Mさん 勉強面では、リスニング力が上がったと感じます。以前は、ハワイなどのレストランでは自分で注文できなかったのですが、カナダでは自分で注文していたので自信がつきました。留学後に韓国へ行ったときも、英語で注文できました。洗濯なども自分でしていたので、生活面でも以前より自立できたと思います。
Tさん 留学前も留学中も、なかなか自分から積極的に話しかけることができなかったのですが、4月に新しいクラスになってからは、自分から話しかけられるようになりました。留学を経験したから、成長できたと思います。
――留学したから得られたと思うことを教えてください。
Mさん 友達がたくさんできて、ホストファミリーと出会えたことです。今も連絡を取っています。
Tさん 留学中は英語が嫌になってしまったときもありましたが、後悔がたくさんあるからこそ、もっと英語を勉強したいという気持ちがでてきました。もっと勉強して、また海外に行きたいです。
――将来についてどのように考えていますか?
Mさん 子どもが好きなので、海外で幼稚園教諭として働きたいです。
Tさん まだ具体的には決まっていませんが、大学は英語を学ぶ学科に進んで、英語を使う職業に就けたらいいなと思っています。
取材を終えて
留学中は、自分から積極的に話しかけることができない場面が多かったというTさん。しかし、その経験を後悔だけで終わらせず、「もっと英語を勉強したい」という思いにつなげていることが印象的だった。Tさんの中で、本当の意味での「世界への扉」が開いたのは、帰国後だったのだろう。Tさんの話から、現地での体験だけでなく、帰国後のフォローも重要であると感じた。来年度に向けて準備が進められている同校オリジナルの海外研修は、事前・事後研修もセットで結果につなげることを目指しているとのことなので、新たなプログラムにも注目したい。
所在地
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