目白研心中学校 スペシャルレポート 8/100年という歴史の中で構築された、多様な「体験教育」

視野を広げる「体験」

2023年4月から、前教頭の吉田直子先生が校長に就任。今年100周年を迎える同校の魅力や、一流に触れる機会として長年続けている「芸術鑑賞会」について聞いた。

 

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▶︎校長 吉田直子先生

 

100周年を迎える目白研心の魅力

1923(大正12)年、同校の前身である研心学園が新宿の高台に誕生した。100周年を迎える今年度は、全ての行事で100周年を意識していくと吉田校長先生は語る。

 

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「その1つが、『校歌を歌おうプロジェクト』です。今年3月に卒業した高入生は、コロナによる制限のある中で3年間を過ごしたので、校歌を歌えないまま卒業したことがとても残念でした。様々な場面で制限が緩和される今年度は、運動会でも校歌を歌いますし、合唱発表会では教員が全員、舞台に立って校歌を歌います。今年同窓会を開く卒業生たちも、みんなで校歌を歌うそうです。校歌を歌う場面をカメラで追って、それぞれが校歌を歌った様子をつないで1本の動画にして、11月の創立記念集会で上映します」(吉田校長先生)

同校では、中1と中2は2人担任制をとっている。2人の担任が生徒たちを見守ることで、生徒たちが自分自身の可能性を知る機会が増え、視野を広げるきっかけにもなることは、同校の大きな魅力だという。

「2人の教員が見ることで、生徒のよいところが2倍見つかります。担任が気づくことで、生徒本人の視野を広げることにもつながるでしょう。2人の担任は、ベテランと若手、文系と理系、男性と女性など、個性が違う教員をペアにしています。生徒にとっても、担任が2人いれば、問題や内容によって話しやすい教員に相談することが出来るのです。本校は英語教育が注目されがちですが、実技系の教科にも力を入れています。主要教科の授業も大切ですが、体験しながら学ぶ実技系の授業も同じくらい大事です。主要教科と実技系の教科は、学びの両輪だと考えています」(吉田校長先生)

「体験」を大切にした教育を行う同校では、一流に触れる機会として、毎年校外のホールを貸し切って「芸術鑑賞会」を開催している。コロナ禍でも可能なかぎり鑑賞会を実施し、100周年を迎える今年度は、劇団四季の公演を貸し切りで鑑賞するという。

「2020年度は残念ながら実施できませんでしたが、2021年度は東京混声合唱団に『歌えるマスク』という特別なマスクをつけて演奏していただき、2022年度はシエナ・スピリッツ*の公演が実現しました。生徒それぞれに好みはあると思いますが、本当によいものを鑑賞した後には、『つまらなかった』と言う子はほぼいません。『面白かった』『素晴らしかった』という感想の後には、ほとんどの生徒が『親にも見せたかった』と言います。よいものを身近な人と共有したいという気持ちや、自分はこんないいものを見たのに、自分だけでとどめておくのはもったいないという思いが自然と湧き出てくるようです。一流の公演はチケットをとるのも大変ですし、各家庭の興味や関心も異なります。学校が機会を提供しなければ、感性豊かな10代のうちに一度も一流の芸術に触れる機会が得られないかもしれません。学校が機会を提供することで、着実に子どもたちの世界は広がっていきます」(吉田校長先生)
*シエナ・ウインド・オーケストラから、選りすぐりの16名で構成されたユニット。

 

文化の違いを知る「体験」

同校は、1998年に英語コースを設置するなど、早くから海外に目を向けてきた。姉妹校も多い同校が実施している、海外プログラムや異文化交流について聞いた。

 中学生のカナダ修学旅行

同校では、6ヶ国にある姉妹校などを通じて、海外プログラムや異文化交流を積極的に行っている。新型コロナの影響で2020年度からは思うように動くことができなかったが、昨年7月には中3のカナダ修学旅行を復活させた。この時期に全員参加での海外プログラムを復活させた学校は、都内でもかなり早い方だったという。

 

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「意思疎通のためのツールとして英語は大切ですが、流暢な英語でなくても思いは伝えられるということを、体験を通して知ってほしいと思っています。中学生の修学旅行先であるカナダは、移民が多い国です。ネイティブスピーカーではなくても、ネイティブの人たちとコミュニケーションを取って、仕事や生活をしている人々を見ることができます。ホームステイ先には、他国からの留学生を受け入れている家庭もあります。ブラジルや韓国から来た同世代と同じ屋根の下で暮らすことは、貴重な体験となるでしょう」(吉田校長先生)

ステイ先のファミリーと「家族として」過ごすことでも、生徒たちは多くのことを学ぶ。

「ホストファミリーから大切にされて、お姫様や王子様のような生活を送れることを期待して、出発する生徒もいます。ところが実際に行ってみると、アメリカのドラマに出てくるような家庭は少ないのです。例えば、学校から帰ってきて買い物に行きたいと言っても、自分たちの都合に合わなければ『今日は行けない』と言われます。お客さん感覚で生徒を受け入れるなら、希望を叶えてあげようとするかもしれませんが、そうではないのです。ファミリーの一員として受け入れているからだということがわかると、文句を言っていた生徒たちも、その家庭の考え方を理解します」(吉田校長先生)

滞在中には、生徒たちが現地の人に日本の文化を紹介する機会も作っているという。

 

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「現地の方たちに文化を紹介する日と、日本食を作ってホストファミリーに食べてもらう機会を作っています。事前学習として、現地で手に入る食材をリサーチしたり、英語でレシピを説明できるように準備することも大切です。それぞれが自分の技術なども考慮して、お好み焼きやカレー、餃子、味噌汁と肉じゃがなどを作ります。美味しかったと言ってもらえることが多いですが、中には『頑張って作ったね。でも、美味しくなかった』と言われて、2口ぐらいでスプーンを置かれてしまうこともありました。日本人なら、たとえ美味しくなくても、『美味しくない』とは言わないでしょう。はっきり言われることで、生徒たちは自分が美味しいと思っているものを、みんなが美味しいと思うとは限らないことを知ります。少し辛いこともあるけれど、それが異文化体験なのです」(吉田校長先生)

 英語圏以外の学校とも交流

英語圏以外の生徒たちとの交流も、よい刺激になっているという。

 

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「コロナ禍ではリモートになりましたが、高校生は台湾の学校との交流もあります。同世代でも、台湾の高校生とは将来に向けた意識などはかなり違うようです。どうやって勉強して、どんな仕事をしたら活躍できるかなど、台湾の高校生たちの多くは海外に目を向けています。お互い、英語はそれほど上手ではありませんが、台湾の高校生が自分の思いを一生懸命伝えようとしてくる様子に、生徒たちは圧倒されていました。そのようなやりとりの中で、『自分たちも、このままではいけない』と気づきます。教員があれこれ言うより、同じ高校生が熱く語る姿を見る方が生徒たちの心に響くのです」(吉田校長先生)

キャリアパスを描くための「体験」

昨年度からスタートした探究の授業など、進路選択につながる「体験教育」について聞いた。

 

 設立から11年目の「学習支援センター」

同校では、基礎学力の定着や学習習慣の確立を目指し、2013年に「学習支援センター」を設置。夜8時まで勉強できる環境を整え、学生チューターに質問できる体制も整っている。

 

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「学習支援センターでは、登録する前に運営サポーターが面接をします。自分のペースで勉強を進められるように、苦手分野はどこか、2ヶ月後にはどこまでできるようにするか、英検や漢検、数検の受検など、目標を設定して勉強カルテを作ります。放課後は学生チューターが常駐しているので、質問もできますし、別料金で個別指導を受けることも可能です。年々、卒業生のチューターが増えてきています。学習支援センターを設置してから今年で11年目になりますが、5年ぐらい前から生徒たちの間で『学習支援センターで勉強すると、いいみたいだよ』などとクチコミが広まり、利用者が増えました。さらに、利用者の中から難関大学へ進学する生徒が続出し、お世話になったから後輩にお返ししたいと、チューターになって戻ってくる卒業生も増えています。卒業生は後輩たちに丁寧な指導をしてくれますし、在校生にとってチューターは身近なよいロールモデルなのです」(吉田校長先生)

進学実績は、「〇〇大学 〇人合格」という数字に目を向けられがちだが、目標に向かって進んでいくための道筋(キャリアパス)で、どのような選択をしたかが重要だと、吉田校長先生は語る。

「進路を決める際に一番大切なことは、ちゃんと『こうなりたい』という自分を思い描いて進路を決めたかどうかです。『なりたい自分』のためのステップとして受験があり、キャリアパスの途中で『いい選択ができたね』と言えることが大切だと考えています。SEC(Super English Course)の1期生には、國學院大学の神道文化学部に進学した卒業生がいました。英語もよくできましたし、SECでは上智大学や海外大学へ進学したいという生徒が多いので、普通に考えたら『なぜ?』と思う進学先です。彼女には『神道を世界に広める仕事がしたい』という強い思いがあったので、神職資格取得過程*のある國學院大學に進学しました。日本文化の発信について学ぶ中で、日本人のベースにある神道を知り、得意な英語を活かして発信していきたいと思ったのです。今は大きな神社に就職して、神主として頑張っています。難関大学への進学だけでなく、このような進路選択も素晴らしいと私は思っています」(吉田校長先生)
*神職資格取得過程を有する大学は、東京の國學院大學神道文化学部と三重県の皇學館大学文学部神道学科のみ。

 

 キャリアパスを意識した「探究」の授業

昨年度からスタートした「探究」の授業により、生徒たちは以前よりはっきりとした将来像を持って進路選択ができるようになったという。

「受験大学を決める際に、『〇〇大学で〇〇を勉強したい』という思いがあるのに、失敗を恐れて手の届くところにある推薦枠に目を向けてしまう生徒もいます。本校では、そのような進路の探し方はなるべくしないような指導をしています。昨年度から、探究の授業が週1時間ずつ導入されました。特に高1~高2は、キャリアパスをしっかり描くことを意識して取り組んでいます。探究テーマの1つは、自分の将来像をしっかりと持つために、好きなことを徹底的に調べて、自分について知ることです。本校では高2からコースに分かれるので、その前に将来についての考えをしっかり持ち、どのような進学をしたらよいか道筋をつけることにつなげていきます」(吉田校長先生)

自分の思いを自分の中だけにとどめておくのではなく、他者に伝えることが大切だと、吉田校長先生は説明する。

「探究の授業では、好きなこと、興味のあることを徹底的に調べてプレゼンします。自分はなぜそれが好きなのか、どんなところが好きなのかなどをプレゼンすることで、より思いが強くなったり、将来へのビジョンが見えてくるのです。国語が苦手だから理系に進もう、数学が好きではないから文系に進もうという考えだけでは、その先に何があるのか見えてきません。探究活動によって、これまで以上に将来像をはっきりとさせてからコース選択ができるようになりました」(吉田校長先生)

 

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吉田校長先生は、失敗を恐れずに挑戦することから学びが生まれるので、チャンスを活かしてどんどん挑戦してほしいと考えている。

「本校の教員には、より多くの目で生徒たちを見て、チャンスを投げかけていく『面倒見のよさ』があります。失敗しないように保護するのではなく、生徒に興味を持って、『これをやってみたら?』と機会を作ったり、背中を押すことを大切にしています。失敗を恐れてやらなかったことは、一生後悔するでしょう。やらないで終わってしまうと、何も残りません。やってみて合わなかったと感じたら、それがわかったことが学びなのです。たとえ失敗してもそこから学ぶことがあり、その経験が自分のものになっていきます。経験してどう感じたか、結果を教員たちに投げ返してほしいです。投げ返してくれたら、教員たちはまた次のチャンスを投げかけます」(吉田校長先生)


取材を終えて

國學院大学の神道文化学部に進学したという、卒業生の話が印象的だった。英語が得意だからと海外大学や国際系の学部に進むだけが、活躍の場を得るための道ではないのだ。キャリアパスにつながる体験教育の中には、同校だから実現できるものも多い。長い歴史の中で築き上げてきた、国内外の教育機関や芸術関係者とのつながりがあるからこそ、実現できるのだろう。

 

目白研心中学校のホームページ

 

 

所在地

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