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第9回 どうして0乗は1になるの? 後編

前回の前編では、3つの説明を紹介しました。今回紹介する説明は計算なしで理解できるものです。興味深いことに「2の冪」の物語が世界中にあります。

曽呂利新左衛門(そろりしんざえもん)

初代曽呂利新左衛門は豊臣秀吉に御伽衆(おとぎしゅう)として仕えたといわれる人物です。御伽衆とは将軍や大名など主君に近侍して話相手をつとめた役です。

秀吉から褒美をもらえることになった新左衛門は「初日は米1粒、2日目は2粒、3日目は4粒、4日目は8粒というふうに、1粒から始めて、100日間、前日の倍の数の米粒をください」と願いでたという。

大したことはないと思った秀吉は承諾したものの、後になり100日後の米粒の総数が膨大になることに気づき、他の褒美に変えてもらったという逸話が有名です。

初日は米1粒、2日目は2粒、3日目は4粒、4日目は8粒ということは、n日目の米は2n-1粒ということです。100日目は299=63穣3825秭3001垓1411京4700兆7483億5160万2688粒となります。

その上、初日から100日目までの合計を秀吉は用意することになるので、合計は
1+2+4+8+…+299=2100-1=126穣7650秭6002垓2822京9401兆4967億0320万5375粒という途方もない数になります。

将棋盤問題

曽呂利新左衛門と同じような話が古代インドにも残されています。王様が家来に与える褒美が「盤の最初の升目に一粒の小麦を置き、二升目には二粒、三升目には四粒と増やしていって、最後の升目の分だけを頂きたい」というものです。

升目が8×8=64ある将棋盤なので、最初の升目に1粒、2升目には2=21粒、3升目には4=22粒、4升目には8=23粒となるので、最後の64升目には263=922京3372兆0368億5477万5808粒となります。

これは世界の小麦生産高の実に2500年分以上になるといわれています。曽呂利新左衛門の126穣粒がいかに大きいかがわかります。

ドラえもんの道具「バイバイン」

現代にもこれらと同じような話があります。マンガ『ドラえもん』てんとう虫コミックス第17巻に収録されている物語「バイバイン」では、お腹が減ったのび太がくりまんじゅうを目の前に「このくりまんじゅう、食べるとうまいけどなくなるだろ。食べてもなくならないようにできないかな…」と無理難題をいいます。

ドラえもんがそれにこたえて取り出したのが「バイバイン」、五分ごとにばいになるというなんでもふやす薬です。さっそくのび太はそれをくりまんじゅうにかけます。

どんどんふえていくくりまんじゅう、どうしても食べきれなくなり残ってしまいます。困り果てたのび太はくりまんじゅうをゴミ箱に捨ててしまいます。そんなことをしらないドラえもんはのび太に次のように語りはじめます。

ドラえもん 一つのくりまんじゅうが5分ごとに倍になると一時間でいくつになると思う?
のび太 さあ……。百個ぐらい?
ドラえもん とんでもない!四千九六個! 二時間で千六百七十七万七千二百十六、それからわずか十五分で、一億個をこすんだよ。

なにやら数値が示されています。検証してみます。一時間=5分×12なので212倍すなわち4096。二時間=5分×24なので224倍すなわち1677万7216。それから15分
=5分×3なので、1677万7216×23=1億3421万7728となり一億個をこします。藤子・F・不二雄はきちんと2の冪を計算しています。

コピー用紙を何回折ったら紙の厚さが月までの距離を超えるか?

コピー用紙は1枚約0.08mmです。100枚の厚さが8mmであることから計算できます。地球と月の距離は約38万kmです。コピー用紙を1回折ると2倍、2回折ると4倍、3回折ると8倍と厚さが倍々になっていきます。

もちろん実際には10回も折ることはできません。折る代わりにコピー用紙を半分に切り重ねるとすれば回数を増やすことはできますが、ここは計算上の話とします。

10回折ると、210=1024倍になりますが、これを1000=103とみることができるのでザックリ計算ができます。
20回折ると、220=210×210≒103×103=106
40回折ると、240=220×220≒106×106=1012
0.08mm×1012=80,000,000,000mm=80,000,000m=80,000km

すると、41回で16万km、42回で32万km、43回で64万kmなので答えは43回とわかります。

指数関数的増加

曽呂利新左衛門、将棋盤問題、バイバイン、そしてコピー用紙を折る問題、どれも「2の冪」の物語として有名です。これは指数関数的増加や指数関数的爆発などと呼ばれます。米粒、小麦の粒、くりまんじゅう、コピー用紙の厚さといった具体例によって指数関数的増加や指数関数的爆発が印象づけられます。

どうして0乗が1になるの?(説明その4)

コピー用紙を折る問題は指数関数的爆発の例としてだけでなく、0乗が1である説明も与えてくれます。

「コピー用紙を1回折ると2倍、2回折ると4倍、3回折ると8倍」
から、
「コピー用紙をn回折るとコピー用紙の厚さが2のn乗倍になる」
ことがわかります。

すると、nが0の場合は、
「コピー用紙を0回折るとコピー用紙の厚さが2の0乗倍になる」
となりますが、コピー用紙を0回折るとはコピー用紙1枚が最初の状態のことなので
「コピー用紙を0回折るとコピー用紙の厚さが1倍になる」
ということに他なりません。すなわち、2の0乗=1ということです。

コピー用紙を1枚手にして何回折れるか挑戦してみましょう。そうしたら、1回も折らない最初の状態が0回折ることであることをご自身で実感してみます。なるほど、0回折ることすなわち0乗は、厚さが同じすなわち1倍であると実感できるはずです。

執筆者プロフィール

桜井 進(さくらい すすむ)

1968年山形県東根市生まれ。サイエンスナビゲーターⓇ。株式会社sakurAi Science Factory 代表取締役CEO。東京理科大学大学院非常講師。東京工業大学理学部数学科卒。同大学大学院院社会理工学研究科博士課程中退。小学生からお年寄りまで、誰でも楽しめて体験できる数学エンターテイメントは日本全国で反響を呼び、テレビ・新聞・雑誌など多くのメディアに出演。著書に『雪月花の数学』『感動する!数学』『わくわく数の世界の大冒険』『面白くて眠れなくなる数学』など50冊以上。「桜井進の魔法の算数教室」と「桜井進の数学浪漫紀行」を毎月開催。
サイエンスナビゲーターは株式会社sakurAi Science Factoryの登録商標です。
桜井進WebSite

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