Special Report
学年行事の海外研修旅行だけでなく、希望者参加型の海外研修や留学の機会をバリエーション豊かに設けている明星中学校・高等学校。新たな海外研修プログラムなどについて、国際教育部主任の平山由紀子先生に話を聞いた。
Index
セブ島での語学研修プログラム「MSSC」
教員引率型の独自プログラム「MSSC」
同校では今年度、新たな語学研修プログラムとして「MSSC(Meisei Summer School in Cebu)」を実施する。参加対象を中3~高2として、セブ島で実施する夏季語学研修プログラムだ。現地に2週間滞在し、月曜から金曜はマンツーマンで英語の授業を受け、土曜日は現地の小学生と交流、日曜日は4人に1人の講師が付いて市内散策などを行う。参加希望者向けの説明会を2回行ったところ、生徒・保護者合わせて120人の参加があり、予想を上回る期待の高さを感じたと平山先生は語る。

「説明会への参加者が多かったのは、私が様々な学年の授業で『教室で座っているだけでは何もわからない』と言い続けてきた結果が出てきたのかなと感じます。座学が中心だと、なかなか日本という枠から出て物事を考えることができません。明星というコンフォートゾーンから自分の意志で1歩を踏み出し、知らない場所で自分の力を試してほしいという思いがずっとあったのです。今回、生徒たちには『意志ある人』しか来ないでくださいと言いました。例えば、友達と一緒に参加して現地でも日本語を話したいとか、友達と同じ部屋で楽しく過ごしたいという人は、このプログラムには向いていません。添乗員も同行せず教員も私1人だけなので、校訓『健康、真面目、努力』を守れるかも重要です。志望理由書などで意志確認をして18人が参加することになり、高校生が中心ですが中3生も5人選ばれました。宿泊は2人1組で、異学年が同部屋になるように組み合わせます」(平山先生)
滞在中の土曜日には、現地の小学生との交流を行う。その際に、「何かお土産をもっていく」という課題が用意されているという。
「自己紹介をしながらプレゼント交換をするためなのですが、『何でもいい』というのが逆に難しいでしょう。現地の小学校では毎年受け入れをしているので、いろいろなお土産をもらっていますが、新しいものでなくてもいいそうです。状態のよい古着でも、ハンドメイド作品などでもよいので、何を持って行くか考えることも学びになります。中高生に考えさせると、折り紙を持って行って一緒にやるという案がでるかもしれませんが、日本人が思う『ザ・日本』が喜ばれるとは限りません。生徒たちにノーヒントで考えさせることも、プログラムの一環です」(平山先生)
帰国後の成長への確信
「MSSC」は、事前学習や事後学習も含めて同校の教員が立ち会う独自プログラム。事前学習としては、オンラインでレベルチェックをして同レベルのグループに分けて、英語学習を行う。帰国後は、プレゼンを実施して英語のレベルチェックも行う。しかしこのプログラムでは、英語を使うことは当たり前として、プラスαでどう変わりたいかを重視しているという。
「プログラムの参加者には、大きなことでなくてもいいので、具体的な目標を持って出発してほしいと説明しました。行く前に現地でやってみたいことをいくつか挙げて、どんな風に変わりたいか考えてもらいます。例えば、1人で両替をしてみる、スーパーでの買い物を1人でやりきるなど、小さなことからのスタートでよいのです。2週間も家を離れるのが、初めての人もいるでしょう。ある程度の環境は整っていますが、洗濯をしたり、何を食べるか、健康をどう維持するか考えることも必要になります。説明会後に保護者から、『ぜひ行かせたい』『自分が中学生の頃にこんなプログラムがあったら行きたかった』『自分も一緒に行きたいぐらいよいプログラム』などと言っていただけたので、皆さんの要望を形にできたと感じられて嬉しかったです」(平山先生)
今年度は東京都私学財団を通して文部科学省から助成金(成績の基準あり)が出るほか、同窓会からも奨学金(参加者全員)が出ることが決定している。
「参加者には、来年度の説明会に登壇して、どんな気持ちで参加して、現地で何を学んで、今はこんなことをしているなど、その後の自分を見せてほしいと言いました。帰国して事後学習をして終わりではなく、そこまでつながることに期待しています。どう変わるかはそれぞれ違うと思うので、こんな風に変わってほしいという目標は立てていません。それぞれの目標を実行していけば、変わらない人はいないと確信しています」(平山先生)
非英語圏の学校との交流への期待
上海の小中一貫校との交流
今年度は、上海福山正達外国語小学との交流もスタートするなど、英語圏以外の異文化を体験する機会も増えてきている。

「もともと明星小学校と交流を進めていた学校なのですが、中学校とも交流をしたいという依頼があり、先日上海へ視察に行きました。上海市内に4校ある、規模の大きな小中一貫の外国語学校です。英語教育に特化した教育を行っており、AIも積極的に活用しています。授業は中国語と英語で行われ、教育の質や本気度の高さも感じました。7月に上海から中学生が30人来る予定で、11月には本校から中2の生徒が何人か上海を訪問します。日本人は恥ずかしがるから英語が話せないと言われることがありますが、恥ずかしがって1歩引いていると、チャンスをつかむこともできません。そのような人の背中を一押しして、1歩を踏み出すきっかけを作るのが教員の役目だと思っています」(平山先生)
高まるグローバル教育への期待
同校では昨年度から急速に国際交流が進み、新たなグローバルプログラムもスタートしている。「ジョージア国際交流プログラム」は、首都トビシリにある高校Oakleaf Schoolとの交流プログラムだ。明星高等学校の生徒が現地を訪れ、授業への参加や観光をするほか、ホームステイを通じて異文化を体験。秋には、ジョージアの高校生が明星学苑を訪問する。「インドネシア国際交流プログラム」は、2022年に始まったジャカルタ首都圏にある私立高校とのオンライン交流が発展。両校の授業をオンラインで繋いでグループ交流や1対1交流、プレゼンテーション等を実施し、生徒たちが互いの文化や生活様式を学ぶ。
「昨年度から国際交流の動きが活発になりましたが、きっかけとなる波が来たら、その波に乗るべきだと感じました。慎重になりすぎると、せっかくのチャンスを逃してしまうかもしれません。海外研修や異文化交流は、保護者や生徒からの要望も多くなってきています。それに応えるためにもまずは波に乗って、実践していく中でよりよいプログラムを作り上げていこうという考えにシフトチェンジしました。大切なのは、生徒本人に『意志がある』ということです。同じチャンスが来ても、ヒットする人もいればしない人もいます。本人がやりたいと思ったときには、こちらが思っていた以上のエネルギーが出るものです。自分の力でチャンスをつかみ取れるように、私たち教員はいろいろな情報やチャンスを提供していきます」(平山先生)
同校のグローバル教育を通して感じる生徒たちの変化は、諦めなくなったことだと平山先生は語る。
「チャンスにつながる種をたくさん蒔いてきたつもりですが、MSSCへの応募が多かったことは、その種が芽を出したのだと思います。以前は、生徒や保護者に海外研修は楽しいだけではないと説明すると、『じゃあ大学に行ってからにします』とか『うちの子にはできないかも』などと諦めてしまうケースが多かったのです。今回、生徒たちからも本気度の高さが伝わってきたので、その思いに応えられるように、私たちも本校に来たチャンスはつかんでいきたいと思っています。意志を持って動き出そうとしている生徒たちを応援して、最後まで責任を持って見守っていくのが、今の明星のグローバル教育です」(平山先生)
「明星」という枠を飛び出して世界へ
「本気度」を見せて留学を実現させた経験談
平山先生が生徒たちに「教室で座っているだけでは何もわからない」と言い続ける理由の1つに、自身の経験があるという。
「私が幼稚園に通っている頃、従姉妹がニューヨークに住んでいたので、幼少期から英語を身近に感じる機会が多くありました。最初に英語への憧れを抱いたのは、ニューヨークから送られてきたカセットテープを聞いたときだったと思います。従姉妹もまだ小さな子どもだったのに、ネイティブのような発音で単語を発していたのです。帰国した彼女たちが洋楽を聞いていると、私も聞き取れるようになれたらいいなと思いました。洋画を字幕で見たときに、自分は笑えないのに英語を聞き取れる人たちは笑っている場面があったことも印象に残っています。字幕には訳されていない部分があることを知り、英語を聞き取れることへの憧れも強くなりました」(平山先生)
ところが、楽しみにしていた中学校での英語の授業は、思い描いていたものとは大きく違っていたと平山先生は振り返る。
「私のクラスで英語を担当したのが、発音もネイティブにはほど遠い高齢の先生だったのです。今思えば、それを言い訳にしてはいけないのですが、あんなに楽しみにしていたのに、私は英語を勉強しようとしませんでした。それでも、留学している従姉妹たちが輝いている姿を見て、私もいつかは留学したいという思いは密かに抱き続けていたのです。都立高校に入学してからその思いが強くなり、自分で留学斡旋業者を探して基準テストを受けることにしました。当時は、都立高校から留学するには、その基準テストに合格する必要があったのです。母に留学したいと言ったら反対されましたが、諦めきれずに祖母に費用を出してほしいと相談して試験を受けたら、運良く合格することができました。実は、祖母から母にも話が通っていて、母も私が諦めずに試験を受けるだろうと思っていたそうです。母が反対したのは、本気度を行動で見せてほしかったからでした」(平山先生)
平山先生は、このときの体験を生徒たちにも話しているという。
「反対されて諦めるようでは、道は拓けないと思います。留学している友達を見ていいなと思っているだけでは、何も変わらないのです。勉強ができるようになりたいと言っていても、言うだけで何も行動していなければ明日もそのままなのだと思います。反対されても留学したいと思って頑張った経験があったからこそ、私は変われました。様々な角度から生徒たちの意欲を引き出したいという思いもあり、自分の経験も話しています」(平山先生)
信頼を積み重ねることの大切さ
生徒たちに変わることを望むなら、教員自身が「楽しそうに生きている」と思われることが重要だと考える平山先生は、生徒の前でははつらつとしているように心がけているという。
「身近な大人が偉そうにしていたり、口ばかりで行動が伴っていなければ、生徒たちはこんな大人にはなりたくないと思ってしまうでしょう。つまらなそうにしている人が言う言葉は、生徒たちにも響きません。『平山先生が言うなら、チャンスをつかんでみよう』と言ってくれる人が増えてきたことは、とても嬉しく思います。私自身も中学と高校それぞれで、個性的で素敵な先生との出会いがありました。どちらも国語の先生だったのですが、先生が好きだったから、先生の好きな詩に関心を持って詩の面白さを知ることができたり、授業時間外に開かれた『漢詩を読む会』にも参加していたのです」(平山先生)
留学しようと決めたとき、大好きな国語の先生からも反対されたという。
「母だけでなく先生からも反対されたのですが、留学中には先生から温かいお手紙をいただきました。ですから、自分が変わってやりきれば応援してもらえると、実体験から感じています。自分がやりたいことをやるためには、信頼されることが大切なのです。やるべきことをきちんとやらなければ、周りを動かすことはできません。信頼される人になれば、協力も得られます。日常生活の中でも、例えば宿題の期限を守って提出すること1つをとっても、その積み重ねが信頼につながっていくのです。生徒たちの中にやりたいことを実現したいという気持ちが芽生えてくるように種を蒔き続けて、それを実現できるようにしっかりとサポートしていきます」(平山先生)
取材を終えて
「MSSC」には多くの関心が集まった中で、選ばれたのは18人なのでかなり狭き門である。それだけ「本気度」を重視していることが、平山先生の話からも伝わってきた。上海やジョージアでの異文化交流などもスタートし、それらのチャンスをどのように活かしていくのか、今後の展開にも注目したい
所在地
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