授業をはじめ、日々の活動すべてにSDGsを意識できる環境を整えている。生徒たちが取り組んでいる「My SDGs活動」とは?
日常生活の中で取り組む「My SDGs活動」
郁文館中学校では、SDGsを特別なことと考えるのではなく、日常的な活動すべてにおいてSDGsを意識できる環境を整えている。日々の教科学習を通して社会課題の自分ごと化を図り、各教科の授業内容もSDGsと関連づけて学べるようにシラバスを作成。有志生徒たちが設立したSDGs委員会では、SDGsに対する理解を校内外に広めるために様々な活動を行っている。同校の渡邉美樹理事長が代表理事を務める公益財団法人School Aid Japanと共同で、バングラデシュ研修やカンボジア研修なども実施。バングラデシュには郁文館が運営に携わる姉妹校があり、交流などを通して途上国が抱える貧困課題や人権問題を身近なものとして体験する。
「本校では夢教育を行っていますが、生徒たちのやりたいことと、SDGsをリンクさせることが大切です。今、社会で求められているのが17項目のどれなのか、地球を守っていくために何ができるかという視点を自分の夢とかけ算します」(国語科・古宇田哲史先生)
近年、同校では約半数が総合型選抜で大学受験をするようになった。その対策としても、SDGs教育は大きな役割を果たしているという。「国語科では、総合型選抜に向けて小論文の指導もしています。ここ2、3年は、小論文でもSDGsの項目に関する考えを高校時代の活動を踏まえてまとめるような出題が増えました。大学でもそのような人材を求める時代になったということであり、6年間のSDGs教育は知識だけでなく、思考力や表現力を養うことができ、卒業後にもつながっていくと考えています」(国語科・古宇田哲史先生)
●郁文館夢学園が目指す「日本一 4つの定義」
定義1.日本で一番、生徒がSDGsを学び、体感できる環境が提供できていること
定義2.日本で一番、教職員がSDGsを意識し、体現できる制度及び職場環境があること
定義3.日本で一番、地球環境にやさしい学校運営ができていること
定義4.日本で一番、SDGsに関心と知識を持ち、自ら行動に移すことができる人材を輩出する中学・高校であること
●「郁文生SDGsアクション動画コンテスト」
国連総会の会期と合わせたGlobal Goals Week期間中(2022年9月16日~9月25日)に、SDGs委員会の主催で「郁文生SDGsアクション動画コンテスト」を実施した。生徒たちは、みんなに伝えて共有したい「My SDGs活動」について動画を制作して応募。その中から「アクションに具体性があるか」「活動にワクワクし共感できるか」「SDGsの達成に寄与しているか」などの視点から、生徒たちの投票で郁文生らしい活動を賞賛するという取り組みだ。SDGsの目的は全世界の人が取り組むことなので、テーマの斬新さなどを評価するのではなく、「My SDGs活動」をどれだけの人に伝えられて共感を得られたかが評価のポイントとなった。全投稿動画のダイジェスト動画を制作し、一階のロビーで1か月間放映することで、さらに意識を高めていくことにつなげている。
生徒インタビュー
Tさん(中1)
兄弟のNさんとHさん(共に中1 SDGs委員)
「郁文生SDGsアクション動画コンテスト」での取り組み
グランプリを受賞した「極楽風呂」について教えてください。
Tさん
リンゴやミカンを食べるときにむいた皮を、シンクで使う水切りネットに入れて入浴剤として活用する方法を動画で紹介しました。フルーツの皮からは自然の香りが漂いリラックスでき、美肌効果なども期待できます。使い終わった水切りネットはシンクで再利用できるので、コストもほとんどかかりません。入浴剤として使った皮は、土に埋めて肥料にすることもできます。食品ロスを減らすことにもつながり、継続しやすい活動です。
NさんとHさんが一緒に撮影して準グランプリを受賞した、「家の近くでゴミ拾い」について教えてください。
Nさん
家の近くで、ゴミ拾いを行った様子を動画で紹介しました。公園へ行く途中の歩道や公園にある遊具の下などに、タバコの吸い殻やペットボトルのゴミなどが多数落ちています。ポイ捨てはよくないことや、運河にゴミが落ちてしまうと海に流れていってしまうので、落ちる前に拾うことが大切だと説明しました。2時間半かけて拾ったゴミの数を円グラフにまとめましたが、一番多かったのはタバコの吸い殻です。
なぜこのテーマで動画を制作しようと思ったのですか?
Tさん
僕の家では、よくフルーツを食べます。自分でリンゴを切っていたときに、この皮はゴミになるし、食品ロスにもつながるなと思いました。何かに活用できないかと考えて、お風呂に入れてみることにしたのです。フルーツそのものの香りが浴室全体に漂って、入浴剤よりリラックスできます。家族も「いつもの入浴剤と全然違って、自然な香りの方が断然いいね!」と喜んでくれました。8月頃から始めて、今では皮を入浴剤にするのが僕の日課です。これを始めてから、入浴剤は買わなくなりました。ユズやメロゴールドでも試してみたら、ミカンよりも香りが3倍ぐらい強かったです。飽きない香りなので、ずっと入っていたいと思いました(笑)。
Nさん
コメント僕はSDGs委員会に入っているので、アクションコンテストを開催した側でもあります。開催するなら自分も動画を作ろうと思い、ゴミ拾いの大切さをたくさんの人に知ってもらいたかったのでこのテーマにしました。ゴミ拾いは、5年生ぐらいからやっています。駅から家に帰る道にゴミがたくさんあって、それを拾っている人がいたので、自分もやってみようと思いました。数では、圧倒的にタバコの吸い殻が多いです。
今回動画で紹介したテーマ以外で、気になっているSDGsの活動はありますか?
Tさん
気になっていることは2つあります。1つは、二酸化炭素を吸収させることができるという道路の舗装技術です。それが実用化されれば二酸化炭素が大幅に減り、温暖化を抑えることができるとテレビで見ました。もう1つは、父の会社で作っている卵の殻を使ったバイオマス(生物由来)プラスチックです。プラスチックと同じくらい強いけれど、卵の殻なら使い終わった後は自然に戻すことができ、食品ロスの対策にもなります。
Hさん
コメントSDGsは17の目標と169のターゲットがあります。なんでもSDGsに結びつけようとしがちですが、すべてがSDGsと結びつけられるわけではありません。169しかないので、本当にSDGsと結びつけられることをしたいと思っています。
Nさん
SDGs委員会でリユースプロジェクト立ち上げて、カンボジアの孤児院におもちゃや文房具、帽子や靴など、使わなくなったものを寄付します。最近は、メルカリ(フリマアプリ)などで売ったり、人にあげたりする人が多いので、リユースプロジェクトは難しいと感じていますが、できることを考えていこうと思っています。
SDGsの活動を通して、気づいたことはありますか?
Tさん
近所の友達とペットボトルの分別をしたり、ゴミ拾いや草刈りをしたりして、一人ひとりの努力は小さなことでも、大きな結果に結びつくと思いました。
Nさん
よく行く生活雑貨の専門店にSDGsのコーナーあり、毎回新しい発見があります。商品を見ながら、こんなことができるんだと気づくことが多いです。
Hさん
例えば、貝殻を使ったボールペンなど、廃材を使った商品や環境に優しい素材の商品があります。先端が鉄になっていて、すり減らないのでずっと使い続けられるボールペンもありました。
動画制作をしてよかったことや大変だったことを教えてください。
Tさん
大変だったことはありません。各家庭で簡単にできることなので、「やってみたらよかったよ!」という声も同級生から聞けました。もし皮が多く出たら、乾燥させて使えばもっと香りが強くなります。
Nさん
撮影の途中でだんだん日差しが強くなってきてしまったので、母に帽子をとってきてもらいました(笑)。暑い時期は、自分もiPadも暑さ対策をしなければなりません。iPadは熱に弱いので、撮影の合間に日陰に入れたりして、熱から守る工夫をしながら撮影しました。
Hさん
ゴミを数えてiPadに入力するときは、1個ずつ数えて数字を打ち込んだので少し大変でした。
郁文館中学校の魅力と将来の夢
SDGsと授業のつながりについて教えてください。
Tさん
例えば数学のテストでは、僕たちが作ったSDGsの動画を題材にした問題がありました。
Nさん
僕の動画からは、ゴミの数を出した円グラフを使っていましたが、単位などは変えて出題していました。
将来の夢について教えてください。
Tさん
みんなを笑顔にする俳優になることです。小さい頃、劇団に所属していたこともあり演技することが好きなので、オーディションなどにも挑戦したいと思っています。
Hさん
まだはっきりと決まっていませんが、興味を持っているのは科学者とかWebデザイナー、プログラマーなどです。塾で理科と数学たくさん勉強しているうちに、理系の科目が好きかもと思うようになり、科学者という職業もいいなと思うようになりました。パソコン系もちょっとだけ強いので、母が買ってきてくれたWebデザインの本を見てhtmlを覚えたりしています。プログラミングも好きです。
Nさん
僕もまだはっきりとは決まっていませんが、ユニセフなど、国際機関の職員になってSDGsに強く関係するような仕事がしたいです。母が国際機関に関係している仕事をしているので、いろいろな話を聞くうちに、そのような仕事をしたいと思うようになりました。
この学校に入学してよかったと思うことを教えてください。
Tさん
俳優になりたいという夢に向かって、オーディションも受けてみようという勇気が沸いてきたのは、郁文館に来たおかげだと思っています。
Hさん
若くて優しい先生がたくさんいることです。ベテランの先生は教え方が上手だと思います。
Nさん
僕も同じで、若くて優しい先生が多いことと、SDGsに力を入れていることです。身近にSDGsを感じられて、主体的にいろいろなことに挑戦しようとする気持ちがよりいっそう強くなりました。SDGs委員会は、中・高あわせて10人ぐらいで活動しています。新しいプロジェクトを決め、その準備をするなど、週1回ぐらいの活動です。高校生から学ぶこともたくさんあって、僕は中1で入ったばかりですが、初めてのことでも高校生がいろいろと挑戦させてくれるので、成長のきっかけになっています。
郁文館中学校
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