Special Report
多摩大学附属聖ヶ丘中学校では、「先生が楽しまなくては、生徒も楽しめない」を合い言葉に、夏休み中に「A知探Qの夏」と題した探究講座を開講。講座を取材し、講座を開講した先生と参加した生徒に話を聞いた。
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教員同士の交流背景としても重要な「A知探Qの夏」
入試対策部長の出岡先生に、「A知探Qの夏」開講の経緯や意義について話を聞いた。
同校が教育改革を進める中で、最初に着手したのが夏期講習の全面的な見直しだったという。中学生を対象としたアクティブラーニング型の夏期講習を作ろうと話し合い、「大人が楽しむ」をコンセプトに、教員がやりたいことを講座にして生徒を集めるスタイルで2018年度にスタートしたのが「A知探Qの夏」だ。教員も生徒も任意の開講・参加だが、2026年度は校長先生の講座も含めて26講座が開講され、86%の生徒が参加。4日間の日程で、外出や宿泊をする講座もあり、生徒たちは普段の授業ではできない様々な体験をする。
「今年は、過去最多の講座数です。石飛校長は授業が大好きで、普段できない分やりたくてしょうがないので毎年2講座開講しています(笑)。教員が好きなことを夢中になって話せば、絶対にその中に学びがあると思っています。スタートした当初は、『こんなことをして何の意味があるの?』などと思う教員もいました。先生方の好きなことをやりながら、その講座が学術的にどんな価値があるのかを組み立てる作業を同時展開する中で、先生方の気持ちもほぐれてきたのです。8年続けてきて、大人が興味を持っていることに対してキラキラしている様子を見せて、それを楽しそうだと思う子どもたちを育てていこうという文化が根付いてきたと、実感できるようになりました」(出岡先生)

自分の好きなことを講座にすることで、教員同士の理解も深まり、月1回、生徒のために本音で議論する教員研修会を開催できる関係性を築くことにもつながったという。
「私は民間企業で働いていた経験があるので、職員室というのは独自の文化があると感じました。40人が同じ学校で働いていても、全員が個人商店のようなイメージで、そのままでは教員同士の関係性が生まれてこないのです。そのような中で好きなことを講座にしたら、『あの先生はこんなことをするんだ』などの気づきが生まれました。例えば、国語の稲葉先生は演劇やミュージカルが好きで、社会の網本先生は音楽が好きなことがわかったから、今年は一緒にミュージカルの講座を開講することができたのです。国語の先生、社会の先生というだけでは、タッグを組みようもないでしょう。夏の講座が交流するきっかけとなり、様々な相乗効果が生まれてきています」(出岡先生)
「A知探Qの夏」の講座をどうやって、普段の授業につなげていくかが課題だと出岡先生は語る。
「生徒たちが勉強する理由を教員がデザインする中で、ゴールとして高校の地域探究学習があり、そこに向けて逆算のカリキュラムを組み、その通過点としてこの『A知探Qの夏』があります。本校には特進コースもないですし、課題を増やしたり勉強密度を上げたりもしていませんが、北海道大学や九州大学、早慶に進学する生徒が出てくるなど、進学実績は伸びています。しかし、難関大学へ進学する生徒がどんどん出るようにするカリキュラムではありません。高校生になれば探究活動で考え方を広げながら、地域の中で経験を重ねて、いろいろな大人と知り合います。その中でロールモデルを見つけて、こんな大人になりたいと思って勉強して、そのために大学に行くというデザインを本校では徹底しています。親に言われたからとか、とりあえずいい大学に行かなければいけないとか、そういったことが大学に進む目的ではなく、生徒たちが学びたいから大学受験をするのです。漢字や英単語を覚えるのは楽しくないけれど、夏の講座は楽しいという生徒たちから、何がそうさせているか考え、夏の講座で発見したことを普段の授業にどう活かせるか今後も模索していきます」(出岡先生)

先生が「教えて楽しい!」生徒が「学んで楽しい!」探究講座
「A知探Qの夏」の開講に向けて中心となって準備を進めた教務部の稲葉先生(国語科)、小島先生(理科)、網本先生(社会科)に、講座の内容や生徒たちの様子について聞いた。
――開講した講座について教えてください。
小島先生 加熱することで起きる変化が見られるような実験をテーマに、毎年化学室で行う講座を開講しています。今年は、ゼリー状のワックスでキャンドルを作る講座です。生徒だけで行うのは危険ですし、材料や実験器具をそろえるのも大変なので、学校でしかできない体験として考えました。与えられるものを待つだけでなく、自分から積極的に何かしようという姿勢をつくるためにも、中学生がやったことのないことに挑戦する機会を作りたいと思っています。

稲葉先生 私は歌や演劇などの表現活動が好きで、特に演劇は見るのもやるのも好きです。授業でも詩の朗読などの表現活動は取り入れてはいますが、本校には演劇部などがありません。何かの形で表現したいと思っている生徒たちが活動できる場がないと感じていたので、のびのびと表現できる機会を作ってあげたいという思いもあり、ミュージカルの講座を開講しました。もちろん、私も楽しんでいます(笑)。

網本先生 中国百科検定*の受検につながる講座です。私自身も中国百科検定にチャレンジしていますが、授業で扱うトピックだけでなく、文化・地理・政治的なこともわかるとニュースも面白いなと思えてきます。初日は、台湾出身でアジアの歌姫と呼ばれたテレサ・テンさんと絡めて、2つの中国について話しました。クラシックや昭和歌謡など、音楽も好きなので、稲葉先生と一緒に開講したミュージカルの講座も楽しんでいます。様々な分野の講座が開講されるので、普段の授業では思うように力が発揮できない生徒が、例えば歌や演技を褒められたら自己肯定感も高まるでしょう。一方で教員にとっても、生徒のいいところ探しができるよい機会です。教員が普段の授業だけでは気づけなかった面に気づくことができるのも、講座の意義の1つだと思っています。
*「日中両国の関係改善のためには、まず相手国への理解を深めることが大切」との思いから、2014年3月に誕生した検定。中国の歴史・地理・政治・経済・社会・文化・教育・スポーツなど、多方面から出題される。
――2日目までの生徒たちを見て、どのように感じていますか?
小島先生 慣れていない中1などは自分から動けないこともあるので、毎年高校生のサポーターを2人ぐらい入れていますが、今年は動けない生徒はいませんでした。色の配合などで失敗しても、それを次に活かせるように、自分たちで工夫するような姿勢も見られます。普段の授業ではガスバーナーを使っていますが、夏の講座ではあまり教えすぎないようにしているので、安全面を考慮してIHを用意しました。
稲葉先生 1学期の授業では見られなかった、意外な面を見ることができました。例えば、中1の男子があんなに大きな声を出して、感情をこめて、台詞を覚えてくるとは思っていませんでした。ミュージカルに興味があることさえ、知らなかったんです。今日は外部から講師をお招きしたので、生徒たちのモチベーションが昨日と全然違っていました。歌や演技も昨日よりずっとよくなったので、外部の先生からの刺激も重要だと感じています。

網本先生 今日は多摩大学に通う中国出身の交換留学生2人に来てもらって、2グループに分けて交流しました。「友好関係を作るのは自分たちなのだ」という気持ちで、直接話して知ることも重要だと思います。多摩大学の先生にも来ていただけたので、中学生にもわかる温度感で日中関係について説明していただきました。生徒たちからは、歴史の教科書には渡来人など、古い時代から中国が出てきて、いろいろなやりとりをしてきているけれど、関係がギスギスしているのは最近のほんの一部分のことなんだねという声がありました。それを生徒たち自身で感じ取ってくれたので、やった甲斐があったなと思えました。

――これまでの講座で工夫したことや今後の展望について教えてください。
小島先生 これまでは、班で1つのお鍋を使うなど、みんなで同じことを実験してきました。今後は、もっと一人ひとりの探究になれるように、実験の組み立てができたらいいなと思っています。
稲葉先生 来年は演劇をやる予定です。夏の講座は文化祭の前にあるので、そのまま有志団体として文化祭で発表するという流れもありえるかなと思っています。
網本先生 私は広島出身で祖父が被爆者なので、東京で過ごす8月と広島や長崎で過ごす8月はずいぶん違うと感じています。昨年は戦後80年ということもあったので、現地で話を聞いて交流するプログラムを組み込んだ講座を開講しました。長崎の活水高校では、被爆三世の生徒たちが平和学習部で活動しています。同世代の被爆三世がどのような想いで、どんなことを考えながら活動しているかを聞くプログラムを考えました。なぜ歴史を見つめる必要があるか、実体験を通して考えてほしいと思ったのです。
稲葉先生 2学期には、長崎を訪問した2年生を4つのグループに分けて順番に各クラスを訪問してもらい、現地で学んだことを発表して学年でシェアしました。
網本先生 生徒たちの発表を聞いて、行ってよかったと思いました。本校の生徒たちは、平和学習部の生徒たちが必死に残そう、伝えようとしていると感じたそうです。語り部さんたちもどんどん減っていく中で、平和学習部の生徒たちは授業で知ったことだけでなく、被爆者の方たちから直接話を聞いているから、本校の生徒より一歩先を行く熱い思いを持っています。それが本校の生徒たちにも伝わっていたことが、生徒たちの発表からわかりました。歴史は昔のことだと思うかもしれませんが、「今」を見渡す材料になるという面白さを知ってもらえるように、講座も少しずつブラッシュアップしていこうと思っています。
「ミュージカル」講座に参加した生徒にインタビュー

Iさん(中2 写真左)
Sさん(中2 写真中央)
Mさん(中2 写真右)
――「ミュージカル」講座に参加した理由を教えてください。
Iさん ミュージカルはあまり見たことがなかったのですが、歌ったり、音楽を聞いたりするのが好きなので面白そうだと思って参加しました。
Sさん 私はディズニーが好きで、将来の夢がディズニーのダンサーなので、ミュージカルは楽しそうだと思って参加しました。歌が本当に好きなので、気持ちよく歌ってみたかったです。
Mさん 幼稚園のとき、教育の一環としてお芝居を経験したことがあり、それ以来演技をするのが好きになったので参加しました。
――実際にやってみてどうですか?
全員 楽しいです!
Sさん 気持ちよく歌えています(笑)。夏休みはみんな家族旅行に行ったりしてあまり友達と会えないですが、この講座に参加すると普段は違うクラスの人とも学校で会えるので楽しいです。
――最終日までの目標を教えてください。
Iさん もっと発声がよくなりたいです。
Sさん もっと歌と踊りが上手くなりたいです。
Mさん 歌ももっと上手くなりたいですが、アドリブ力もつけたいです。
――昨年はどの講座に参加しましたか?
Iさん マリオカート(ゲーム)をeスポーツとしてトーナメント方式で対戦して、一番強いプレーヤーを決定するという講座です。とても盛り上がりました。
Sさん いろいろな結晶について、ビーズを使って模型を作ってみようという講座です。断面などを観察できて楽しかったです。
Mさん Sさんと同じ結晶の講座と、中国百科検定の講座です。中国百科検定を受検して面白いと感じているので、今年も参加しています。
――この学校を受験しようと思った理由を教えてください。
Iさん 説明会に来たり、公式YouTubeで先生と生徒が話している様子を見て、先生方が面白くて、生徒との距離も近くて楽しそうだと思ったので受験しました。
Sさん 説明会で先生が気軽に話しかけてくれたので、この学校は困ったときには先生方が助けてくれるんだなと思いました。中学ではダンス部に入ろうと思っていたので、この学校のダンスドリル部はアメリカの大会で優勝経験があることも理由の1つです。
Mさん 説明会の後に校内見学をしたとき、案内をしてくれた先生が優しく声をかけてくれて、和ませてくれたのがいいなと思いました。小学校ではプールに入る前にとても冷たい地獄のシャワーが嫌だったので(笑)、この学校のプールは屋内で温水なのもよかったです。
――入学してみていいなと思ったところを教えてください。
Iさん どの先生も授業が面白くて、勉強しようという気持ちになれて楽しいです。部活動はテニス部と天文部に入っています。学校への不満は思い浮かびません。
Sさん 先生との距離が近く、敬語は使うので友達レベルまではいかないですが、ワチャワチャ話せて楽しいです。授業中も先生がクイズ形式で問題を出したりして、授業が楽しく受けられます。最高の学校です!
Mさん 茶道部と自然科学部に入っていますが、先輩も優しくて話しやすい空気にしてくれます。夏休み中に「A知探Qの夏」の講座があるのも嬉しいです。
――将来の夢や目標を教えてください。
Iさん アナウンサーになりたいので、発声練習をもっと頑張ろうと思っています。
Sさん 絶対にディズニーのダンサーになりたいです。
Mさん 本が好きなので、司書になって読書の良さを広めたいです。
<取材を終えて>
網本先生の講座では、中国人留学生と生徒たちの交流が印象的だった。日本のドラマ「半沢直樹」や「白い巨塔」が中国でも人気があること知ったり、中国で人気の歌手ジェイ・チョウの歌を一緒に聞いてみるなど、タブレットも活用しながら身近な話題で交流が楽しめている。このような交流を通して他国への理解を深めることができる機会はとても重要であり、それが実現しやすいのも大学が同じキャンパスにある同校の魅力だと感じた。
所在地
〒206-0022
東京都多摩市聖ヶ丘4-1-1
TEL 048-424-5781
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