「中学受験の基礎知識」シリーズでは、「私立と公立の違いは?」「偏差値って何?」など、小学生のお子さんを持つ保護者の皆さんが気になる項目について解説していきます。
Vol.3では、「なぜ中学受験をするのか? ~公立教員と私立教員の違い~」をテーマに、中学受験について解説します。
公立と私立の教員採用試験
公立学校の教員採用選考試験は、都道府県・政令指定都市教育委員会がそれぞれ実施しています。多くの教育委員会では、学校種別、教科別に選考。合格して採用されると、地方公務員となります。
一方、私立学校の教員採用は、すべて各学校(学校法人)が独自に行っています。採用試験は公立学校と同様に、筆記試験、面接試験、模擬授業などで構成。公立と異なる点は、志望する学校の「建学の精神」をきちんと理解しておかなければならないことです。
公立学校の教育方針は教育委員会が統括しているので、学校差がほとんどありません。しかし私立学校では、「建学の精神」が教育にも反映されており、面接試験では教育理念への理解や共感も重要な判断材料となります。
受け継がれる「愛校心」
公立学校の教員は公務員なので、異動があります。主な目的は、職員の資質向上や学校間で職員構成に偏りがないようにするためです。
一方、私立学校の教員には基本的に異動がありません。専任であれば、定年まで同じ学校に勤められます。教員は、学校が掲げる教育目標に向けてノウハウを積み重ねていくことができ、学校側としては学校改革などの長期計画も進めやすいです。
生徒の側から見ると、授業や部活で指導を受けた教員がずっと母校にいてくれれば、卒業後も母校とのつながりを保つことができ、愛校心も強くなります。母校の教員となって恩師と同僚になるというケースもあり、校長がOB・OGという学校も少なくありません。
インタビューで将来の夢について質問した際に、「中1のときに担任だった先生のおかげで今があると思っています。教員になってこの学校に戻ってきて恩返ししたいです」と答えた高校生もいました。
中高一貫教育では、教員が担任団(学年団)を作って中1から高3まで持ち上がる学校もあり、教員と生徒、生徒同士の間に家族のような絆が生まれやすい環境です。6年間同じ仲間と学んだ経験を持つ社会人からは、「一生つきあえる親友と出会えた」という声も多く聞かれます。
「〇〇会」などと称する同窓会組織が活発な活動を行ったり、文化祭などの行事ごとに母校を訪れて教員に近況報告をするなど、卒業後も学校とつながりを持っているOB・OGが多いのも私学の特徴です。
中・高で連携した指導が可能
私立の中高一貫校では、中学校と高校の教員は連携が取れているので、高校から逆算した指導ができます。例えば、高校の数学で躓く原因をさかのぼり、中学生のうちから高校の内容を視野に入れた指導も可能です。中3から高1に上がるときも、学習内容をスムーズに接続することができます。
大学受験で結果を出すためには、「授業」だけでなく「自学自習」も大切です。生徒自身が本気で取り組まなければ、よい結果を出すことはできません。そのため多くの私学では、学習習慣が身につくように、中学入学時から様々な取り組みを行っています。
例えば、放課後に学校の宿題に取り組む時間を作ったり、家庭での学習習慣をつけるために「午後〇時~〇時は中1全員が自宅で学習する」と決めている学校もあります。このような取り組みを中学生のうちに行っておくことが、高校生になってからの「伸び」につながるのです。
生徒一人ひとりと向き合う姿勢
公立の場合は、生徒数に応じて教員の配置人数が法律で決められています。一方、私立の場合は、学校ごとに決めることが可能です。教員1人あたりの生徒数が少ないほど、コミュニケーションを取りやすい環境を整えることができ、生徒一人ひとりと向き合う時間も確保できます。
また、授業でわからないことがあれば教員に1対1で質問できるように、職員室前に机と椅子やホワイトボードを用意したスペースを作るなど、様々な工夫も見られます。実際に、中・高生へのインタビューで学校のよいところを聞くと、「先生との距離が近い」という回答が非常に多いです。
私立は、ディプロマポリシー(どのような人材として社会に送り出すかという方針)も公立よりはっきりしています。そのため教員は、「卒業」という漠然としたゴールではなく、明確な目標に向けてきめ細やかなサポートをしていくことができるのです。
広い視野での教育につながる多彩なバックグラウンド
公務員である公立教員と比べて、私立教員はバックグラウンドが多彩です。公立でも企業で働いた経験がある教員はいますが、私立では現職の教員が学校外で活躍しているケースもあります。
例えば、依頼を受けて全国で講演をしたり、企業と契約して社員教育を行ったり、NPO法人を立ち上げるなど、学校外での活動も多様です。教員が官公庁や企業との共同企画などを実施して、部活動の活動費用を外部から調達している例もあります。
これらの経験や活動により、広い視野で教育を展開させることができるだけでなく、企業の協力を得た体験プログラムや充実したキャリア教育の実現にもつながります。
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