第10回:1月、ついに始まる本番〜試験当日、親ができること〜

1月の朝、玄関で子どもを送り出す。「行ってらっしゃい」と笑顔で言いたいのに、声が少し震えてしまう。いつもと変わらない朝のはずなのに、家の中にはどこか張り詰めた空気が流れています。

ただ、この日に親が一番気をつけたいのは、自分自身の不安を必要以上に子どもに伝えないことです。

「ちゃんと問題を解けるだろうか」「緊張して頭が真っ白にならないだろうか」「もし不合格だったらどうしよう」。親の頭には、さまざまな思いが浮かびます。しかし、親の表情や声のトーンは、思っている以上に子どもに伝わります。親が落ち着かない様子を見せると、子どもも「失敗できない」とプレッシャーを感じてしまうことがあります。

試験当日に慌てないためには、事前準備が大切です。受験票や筆記用具、時計、上履きなどの持ち物は前日までに親子で確認しておきましょう。学校までの経路や所要時間も調べ、交通機関の遅延なども想定して余裕を持ったスケジュールを組んでおくと安心です。

一方で、当日の朝に「受験票持った?」「鉛筆は何本ある?」と何度も確認するのは避けたいところです。必要な準備を済ませたら、あとは普段通りに過ごせるようにしましょう。

試験会場まで一緒に行く場合も、道中ではできるだけ受験の話をしないことをおすすめします。好きな音楽を聞いたり、学校での出来事を話したり、他愛のない会話を楽しんだりするだけで十分です。

もし子どもが緊張している様子なら、「緊張するよね。それだけ頑張ってきたんだもんね」と受け止めてあげましょう。

会場に着いてからも、長々とアドバイスをする必要はありません。「いつも通りやれば大丈夫」「応援しているよ」とシンプルに伝えて、笑顔で送り出してあげましょう。

そして、試験が終わって子どもが会場から出てきたとき。親が一番聞きたくなるのは「どうだった?」という言葉かもしれません。しかし、ここでも少し我慢が必要です。

試験直後の子どもは、ほっとしているかもしれませんし、思うように解けなかった問題を思い出して落ち込んでいるかもしれません。話したい子もいれば、受験のことは考えたくない子もいます。まずは子どものペースを尊重しましょう。

「できた!」と言ってきたら「よかったね」と一緒に喜ぶ。「難しかった」と言ってきたら「そうだったんだね」と受け止める。親が動揺したり、がっかりした様子を見せたりしないことが大切です。まずは「お疲れさま」「よく頑張ったね」と、試験を終えたことを認めてあげましょう。

試験の合間、親が待っている時間の過ごし方も重要です。子どもが試験を受けている間、親は結果を待つことしかできません。スマートフォンで受験情報を検索したり、合格可能性を調べたりしていると、かえって不安が大きくなることもあります。

散歩をしたり、本を読んだり、友人と話したり。親自身も気持ちを落ち着かせる時間を持つことが大切です。

また、滑り止めの学校を用意しておくことも、心の安定につながります。もちろん、受験校を増やせばよいというわけではありません。子どもの体力や日程、通学時間なども考慮しながら、第一志望以外にも自分に合った学校があると親子で確認しておくことが安心につながります。

第一志望の試験が終わった後、次の試験までの過ごし方にも気を配りたいところです。子どもは想像以上に疲れています。すぐに次の学校の過去問を解かせるのではなく、まずは食事をして、ゆっくり休ませてあげましょう。

そして、合格発表の日。もし不合格だったら、どう子どもに伝えるか。これも事前に考えておきたいことの一つです。

たとえば不合格という結果なら、親も悔しさや悲しさを感じるでしょう。しかし、「もっと勉強しておけばよかったね」といった言葉は、子どもをさらに追い詰めてしまうことがあります。まずは「悔しいよね」「ここまで頑張ってきたもんね」と気持ちを受け止めてあげましょう。

中学受験では合格と不合格という結果が示されます。しかし、受験を通して積み重ねてきた努力や、困難に向き合ってきた経験まで、合否によって決まるわけではありません。

試験当日、親にできることは実はそれほど多くありません。勉強を教えることも、代わりに試験を受けることもできません。できるのは、子どもが安心して力を発揮できるよう、いつも通りの環境を整えること。そして、どんな結果でも子どもの味方でいることを、態度で示すことです。

今日も、明日も、子どもは試験会場に向かいます。親は祈ることしかできない時間があるかもしれません。でも、これまで一緒に過ごしてきた日々や、送り出すときの笑顔、帰ってきたときの「お疲れさま」という言葉は、きっと子どもの心を支えてくれます。

最後に、結果にかかわらず、こう伝えてあげてください。

「ここまで本当によく頑張ったね」

その一言が、子どもにとって何よりの支えになるはずです。

【プロフィール】熱海康太(あつみ・こうた)

一般社団法人日本未来教育研究機構 代表理事。大学卒業後、神奈川県内の公立学校、私立小学校で教壇に立つ。その後、民間教育研究所の主任研究員を経て、現職。即効性、再現性、持続性のある教育実践をSNSで発信し、教育関係者から支持を集める。全国10,000人以上の先生方に講演を行うなど、幅広く活動。著書に『こどもモヤモヤ解決BOOK~もふもふ動物に癒やされながら、みんなの悩みをスッキリさせる159のヒント~』(えほんの杜)、『こんなときどうする? 失敗&ハプニング立ち直り術: 5分でカイケツ道場シリーズ』(実務教育出版)、『学級通信にも使える!子どもに伝えたいお話100』『伝わり方が劇的に変わる!6つの声を意識した声かけ50』(東洋館出版社)など10冊以上の教育書を執筆。

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