前回の記事では勉強していてよかったことと僕が考える勉強の意味というテーマでお話しました。まだ記事を読んでいない方はこちらを先にお読みください。
前回の大まかな内容をまとめると、僕は2年間の高校受験で当たり前を疑う思考力と聞く前に調べる癖が身につき、何事もやればできることを知り、見えなかったものが見えるようになることに勉強の意味があると気付きました。
今回は、半年間の連載の最終回。まずは、ここまで記事を読んでくださりありがとうございました。今回のテーマは、今までの5回分の記事を踏まえて僕が最後に伝えたいメッセージを綴ります。まだ子育てをしたことがないお前に何がわかるんだ! と言われてしまえばそれまでですが、子供の立場だからこそ、また小中学生対象のオンライン塾を運営して色々なご家庭と接してきたからこそ持てる視点や言える言葉があると思います。少し厚かましい内容になってしまうかもしれないので大変恐縮ですが、一つの言葉として頭の片隅に入れておいてくださると嬉しいです。
「勉強しなさい」は百害あって一利なし
まずはこれまでの記事の内容をざっと振り返りましょう。
家に帰ってすぐゲームばかりしてしまう子には、勉強の意味を知らない、もしくはそれに納得していない子や他に打ち込むことがない子、今まで培ってきたゲーム内のコインを放棄してまで勉強に面白さを感じられていない子がいます。
そもそも勉強の面白さには知らなかったことを知る快感と自分の成長を感じられる快感の2種類があり、面白さに気付けないのはやっていることに興味がないか長く続けられないことが原因なのです。興味を持たせて勉強を継続させるには、「勉強」という枠組みから離れて子供の好奇心を引き立てる習い事を見つけてあげたり、日頃から学ぶことを面白いと感じられる会話をしたり、勉強するにしても難しすぎず簡単すぎないレベルの勉強をさせてあげることが大切です。
ここで子供の成績が他の子と比べて低いことに焦りを感じたり、親自身の子供時代と比べて焦る必要はありません。親の役割はテストの点数を管理することではなく、子供が勉強の面白さに気付けるように熱中できる何かを一緒に見つけてあげることだと思っていますし、勉強の面白さに気付いた子の成長スピードには目まぐるしいものがあります。
僕の周りを見ると、たまたま出会って本にビビッときて自分の内側に眠る興味がくすぐられたり、勉強以外の得意なスキルを勉強に活かしたら勉強も得意になったり、塾に通い始めて友達との競争や自分の成績の伸びを実感することで勉強の面白さに自分から気付いた人が、誰かに言われずとも自分から進んで勉強しています。短期的なテストの点数や学校の成績に囚われて子供の本心を無視していると、その時間で気付けたかもしれない勉強の面白さに気付けないまま大人になってしまうことだってあるのです。
僕自身は中学2. 3年生の時に受験勉強に打ち込んだことで、勉強をしてこなかった中学1年生までの自分と比べて圧倒的に力がついたと信じています。何より自分の力で道を切り開いて目標を達成できたことは、何事も最初から諦めずに努力すれば今は無理だと思っていることもできるようになるかもしれないと、僕の人生に根本的な自信を与えてくれました。
ここまでの内容で僕が伝えたいことは一つだけで、お子さんに「勉強しなさい」と絶対に言わないでくださいということです。
確かに勉強をしないでゲームばかりしている子供を見て、勉強が将来の子供を助けると分かっているからこそ不安になる気持ちは充分わかります。自分が学生時代に勉強をおろそかにしたからこそ子供に同じ過ちを繰り返して欲しくなかったり、逆に自分が学生時代に勉強を頑張ったことでその恩恵を受けているからこそ子供にも頑張って欲しかったり、様々な思いが混在した上での「勉強しなさい」なのだと思います。もしくは親の方からやりなさいと言わないと自分から何かを始めることがないからこそ敢えてこちらからノルマを作っているのかもしれません。
ただその一方で、「勉強しなさい」と子供に連発することが長期的に見て子供が自分から学ぶ姿勢を奪うこともあります。そもそも学問とは人から教えられたことをそのまま鵜呑みにして淡々と作業をこなすことではなく、得た情報をもとにああでもないこうでもないと自分なりに解釈を加えたり、新しく発生した疑問を解決するために調べたり実験したり、もっと知りたい! と心から思わないと深めることのできない領域です。この、未知のものを既知にしようとする姿勢やその時に使う考え方が勉強をして得られる莫大なメリットであり、仮に学歴を得た後も生きる上で自分を助けてくれる学歴以上に有意義なアイテムだと僕は考えています。その上で「勉強しなさい」という発言は子供のやる気を削ることだけでなく、このメリットを享受できない子にしてしまうかもしれません。
「勉強しなさい」と言う親がいる家庭に、勉強が好きになる子は出てきません。親自身も勉強の面白さを知っていて子供にも知って欲しいと思っている親は、その代わりに「一緒に勉強しよう」とか「最近どんな勉強してるの? 教えてよ」と声をかけたり、面白さに気づけるきっかけを与えるために刺激的な場所に連れて行ってあげたり、刺激的な大人の人に会わせてあげたりするはずですし、その環境が家庭内にあれば自然と子供も勉強に興味を持つはずです。
僕自身、小学3年生から6年生までの約4年間は学校の宿題に加えて父が本屋で買ってくれた国語と数学の参考書と、NHKの『えいごであそぼ』を毎日見ていました。自営業だったので父の隣で勉強して、やることが終わったらゲームをしてもいいと言うルールでした。中学生になって英語や数学で苦労することがなかったのは父のお陰ですが、当時の僕は早くゲームをするために勉強をこなしていただけだったので、父が家にいない時は家中から参考書の答えを探して答えを写してやったふりをしたりしていました。やらされる勉強は嫌いでしたし、勿論勉強の面白さに気づくことはできないまま中学生になりました。
僕の勉強スイッチが入ったのは、小学校の仲の良い同級生が中学受験で名門校に入るのを聞いて感化された時で、彼らに負けないようにまずは自分が進んだ公立中学校の定期テストでは1位になってやるぞという対抗心から始まりました。スタートは純粋な勉強への好奇心からではありませんでしたが、誰かに言われてではなく自分から始めた勉強は面白いし、成績が上がることが実感できると継続することもできました。
子供はどのタイミングで急に火がつくか分かりません。だからといってそのタイミングが遅いことを嘆いているのは当の本人である子供ではなく、いつも親なのです。もう少し待ってあげませんか。これを僕からのメッセージとさせていただきます。
今回の連載の題名は「息子が自ら勉強するようになるプロジェクト」でした。勝手にそうなる人も中にはいますが、ほとんどの場合最初は親御さんの補助も必要です。この記事を読んでくださっている多様なご家庭を想像してできるだけ具体的に、解決策も含めて一生懸命書いてきました。僕の願いは、もっと沢山の子供たちが勉強の面白さに気付いて欲しい、ただそれだけです。そしてそれは、お子さんの一番近くで影響を与える親御さんの協力なくして実現できません。これまでの記事の中で何か一つでもお子さんに当てはまるものがあれば幸いです。改めて全6回、ここまで読んでくださりありがとうございました!
著者紹介
藤原 遥人(ふじわら はると)
学校で教えないことを高校生が中学生に教える塾、寺子屋ISHIZUEの創業者。現在開成高校3年生。年齢差2.3歳の先生が語りかけ、生徒とともに成長していくことで大人がいくら伝えても届かない「勉強の面白さ」をもっと沢山の日本人中学生に知って欲しいとう思いから2020年冬に創業。最近は「僕たちはなぜ勉強をするのか」というテーマでのイベント登壇など、自身の受験勉強と向き合いながら「中高生にとっての勉強の意義」を追究。趣味はピアノとサッカーとダンス。