【連載:数学と言葉】第6回 数学用語の言葉使いその2 数は「かず」それとも「すう」

「かず」から「すう」へ

小学1年生の算数教科書で最初に習う「1 かず とすうじ」、そこで登場する1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、…、そして0という数は「かず」と読むにふさわしく、πのような数は、無理数、実数、超越数というように「すう」と読むのがふさわしいように思われます。

もちろんこれは日本語に限ったことです。英語では数はすべてnumberです。遠い昔、私人類の祖先が小石を用いて物の数を表していた時代の風景が「1 かず とすうじ」のページに描かれています。

動物や植物といった自然に見えるものの個数に1、2、3、4、5という数字が対応することの紹介が絵だけでなされています。文は見出しの「1 かず とすうじ」だけです。まさしく、このページに描かれた1、2、3、4、5は「かず」にふさわしいと言えます。その時代から数万年後に、発見された数が無理数、実数、超越数といった「すう」です。

私たち日本人は数を「かず」と「すう」の読み分けを無意識で自然に行っているように私には思われます。「かず」はプリミティブ(原始的)な数であり、「すう」はソフィストケート(洗練)された数という使い分けです。

玄米を精米して吟醸酒を作るような感覚にも思えてきます。「かず」を精米していくと「ず」の濁点がとれて「す」になった吟醸酒のような数が「すう」だということです。

「かず」を精米して「すう」ができるまでに要した時間は数万年か数十万年か、吟醸酒を有り難くいただく日本人ならではのセンスで現代の「すう」を有り難く味わいたいものです。

執筆者プロフィール

桜井 進(さくらい すすむ)

1968年山形県東根市生まれ。サイエンスナビゲーターⓇ。株式会社sakurAi Science Factory 代表取締役CEO。東京理科大学大学院非常講師。東京工業大学理学部数学科卒。同大学大学院院社会理工学研究科博士課程中退。小学生からお年寄りまで、誰でも楽しめて体験できる数学エンターテイメントは日本全国で反響を呼び、テレビ・新聞・雑誌など多くのメディアに出演。著書に『雪月花の数学』『感動する!数学』『わくわく数の世界の大冒険』『面白くて眠れなくなる数学』など50冊以上。
サイエンスナビゲーターは株式会社sakurAi Science Factoryの登録商標です。
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