うわさの伝播方程式とS字カーブ
うわさの伝播のモデルは次のように考えることができます。
近隣エリアと人口移動がない閉鎖されたエリアの人口をN〔人〕
時刻tであるうわさを耳にしたことがある人の人数をx〔人〕
うわさを耳にする人の微分(勢い)がどのように表されるかを考えてみます。
うわさを知っているx〔人〕に比例するのはあきらかです。
同時に、時刻tでうわさを知らない人はN-x〔人〕にも比例します。
始めのうちはうわさを知っている人が少ないので微分(勢い)は小さく推移します。すると一気にうわさが広がりはじめ(微分が大きくなる)ます。しかし、そのまま微分が大きいままで推移することはなくなります。うわさを知っている人が少なくなるからです。これをグラフで表すとS字にみえます。
したがって、うわさを耳にする人の微分(勢い)dx/dtはxと(N-x)に比例するので次のように表されます。
これをコンピューター・シミュレーションしたのが次の結果です。
実はこのモデルは、うわさのように流行する現象にも応用できます。技術革新の流行モデルがそうです。結果のグラフは、技術革新・マーケティングのS字曲線と呼ばれているものです。採用過程は50%の企業が技術革新を取り入れたN/2までは増加し、それ以後は採用が鈍ることが確認できます。
企業が新技術を導入・開発した場合、最初のうちはイニシャル・コストに対して思うようにパフォーマンスは上がりません。それでも、コストを費やし続ければ次第に、そして急激に変化が起き、一気にパフォーマンスが上がっていきます。しかし、新技術も最終的には成長のペースが落ちていき、パフォーマンスの上昇もゆるやかになっていきます。これがS字曲線の特徴です。
うわさが好きなわたしたち
スマホもSNSもなかった今から50年近く前の日本で、二人のヒソヒソ話しが町中にひろがっていった状況に驚かされます。それも極めて短い時間で。思い起こせば、この事件以後も日本ではうわさが町中いや日本中を席巻したこともありました。口さけ女です。小学生だった私は毎日耳に入ってくるうわさに怯えたことを覚えています。
現在はスマホやSNSという道具ができて、いつでもどこでもすばやく個人が世界中に言葉を発することができる時代になりました。うわさの量と質は変わりました。
でもうわさ好きな人と人の間をうわさが伝わることは変わりません。たった6人以下で世界中はつながるほど実は世界は小さいのです。いつの時代も「口は禍のもと」だということをSNS時代にも肝に銘じておきたいものです。
執筆者プロフィール
桜井 進(さくらい すすむ)
1968年山形県東根市生まれ。サイエンスナビゲーターⓇ。株式会社sakurAi Science Factory 代表取締役CEO。東京理科大学大学院非常講師。東京工業大学理学部数学科卒。同大学大学院院社会理工学研究科博士課程中退。小学生からお年寄りまで、誰でも楽しめて体験できる数学エンターテイメントは日本全国で反響を呼び、テレビ・新聞・雑誌など多くのメディアに出演。著書に『雪月花の数学』『感動する!数学』『わくわく数の世界の大冒険』『面白くて眠れなくなる数学』など50冊以上。
サイエンスナビゲーターは株式会社sakurAi Science Factoryの登録商標です。
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